らびっとブログ

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映画「ダンケルク」いまいち

映画「ダンケルク」(2017年)は映画館で見損ねて、やっとU-NEXTで観た。ダンケルク第二次世界大戦初期の重要な撤収戦だが描いた映画は珍しく、「ダークナイト」などで人間の描写に迫力あるクリストファー・ノーラン監督だからとても楽しみだった。

 

映画は以下が同時進行で交互に描かれ、最後にほぼクロスする。

  1. ダンケルクからイギリスへ陸から船で脱出(1週間)
  2. イギリスからダンケルクに救援に向かう民間徴用船(1日)
  3. イギリスからダンケルクに向かう戦闘機(1時間)

 発想は面白いが各シーン間の時間が異なるので、シーンが変わると突然夜になったり、その次は前の昼がまだ続いてたり、同じイベントが別の視点でかなり後から再び描かれたり、変な感覚だ。

 

映画でもドイツ軍の戦車が止まったと話が出る。ヒトラーが袋のネズミ状態の憎き英仏軍を前に停止を命じたのは謎とされるが、電撃戦の空前の大成功の後で最後に慎重にしたのはわかるような。そもそも数や国力で劣るドイツは消耗戦は避けて戦略的勝利を重ねるしかない。しかしこの間にイギリスは民間徴用船を含めた大撤収を成功させてしまい、後の連合軍による西部戦線反攻(D-Day)に繋がってしまうのだ。仮にナポレオンなら撃滅戦を行ったのではないか。

 

映画の冒頭ではイギリス歩兵が街で銃撃に追われ海岸に辿り着くが、説明なし、敵は見えない、主人公にカメラが付いて回ると、後の「1917 命をかけた伝令」(2020年)の奔りみたいだ。

 

しかし細かい揚げ足を取るようだが、色々とリアルに感じられない。

  • 人間なら撃たれたくない。まず銃撃された方向を考えて物陰に隠れながら逃げるのが普通なのに、道の中央を皆でどんどん歩いて次々撃たれて減るなんて映像&ストーリー優先とは思うが不自然すぎ。
  • 船のすれ違いもスピットファイアの編隊も間隔近すぎ。映像優先はわかるが、これではアクロバットだ。
  • 砂浜に並ぶ兵士を上空から海岸線に沿って延々と何回も映す、ここが I-MAX 撮影の見せ場と思うが、30万人もの大撤収なのに人数が余りに少ない。民間徴用船も10隻くらいしか見えない。安易にCGを使わないのは偉いが、予算制約なら見せ方を考えて欲しい。しかも後ろの街並みは現代風で綺麗なのも違和感。
  • スピットファイヤは何回も敵機と遭遇しては撃ちまくる。弾切れが心配になる。「紅の豚」ではここぞという瞬間だけ押してたが、なんか幼児用テレビゲームみたいだ。あと弾が届く時間を考えて敵機より少し先を狙うべきじゃないのか。

 

それでも肝心の人間が描けていれば良い。民間船の3名、特に船長のドーソンと息子のピーターの演技はなかなかで、息子の変化がかっこいい。ただそれ以外は、船の沈没などの恐怖を監督得意の描写で描いて窒息恐怖症になりそうで迫力満点なのだが、しかし同じようなシーンが反復される。まぁダンケルクは海に追い詰められた話なので当然とはいえ、やっぱりワンパターン。どうせ細部はフィクションなので、「ダークナイト」のようにキャラクターに合わせた山場が欲しかった。

 

そして遂に3つのストーリーがクロス、といっても特に劇的に絡むわけでもなかった。これはリアルなのか拍子抜けなのか。

 

エンドはチャーチルイギリス賛美で終わる。「1917 命をかけた伝令」のように「実はもう一つ」がある訳でもない。この撤収成功で「ダンケルク・スピリッツ」が盛り上がったのは事実だが、なんだーただの英国ナショナリズム映画か、みたいな感じだ。

 

ただイギリスの田舎町で住民が「敗残兵」を温かく迎えるのは良いシーンだ。生きていれば次の希望もある。旧日本軍のような「お国のために死ぬことが名誉」「自分だけ生きて帰るのは恥辱」の精神論的美学ではない、しぶとい歴史と国民性を感じる。

 

確かにノーラン監督作品だったけど、なんだかなー、いまいちな作品でした。

 

映画「1917 命をかけた伝令」のワンカットと塹壕戦 - らびっとブログ