らびっとブログ

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ウクライナ侵攻:論点まとめと意見

2月24日開始のウクライナ侵攻から2か月経過したが、短期間で首都陥落との予想を覆して主戦場が東部に移って長期化懸念の中、世間の主な論点に意見を書いてみたい。

 

なお私はこの侵攻はロシア側の明白な国際法違反で、即時停戦して撤収すべきと思うし、微力ながらユニセフとUNHCRに寄付もしたが、同時に安易な勧善懲悪や便乗論も問題で、安全保障は本来は理性的・長期的に考えるべきもの、と思ってます。(最終更新 2022/4/25)

 

 

どちらが悪い?

侵攻開始2日に書いたように、ロシア側の純粋な国際法違反としか考えられない。ロシアはブダペスト覚書でウクライナ主権国家と国際的に認めたので、後から歴史的経緯や軍事同盟の選択を理由にして他国の主権を侵害する事はできない。

 

仮に「ナオナチによるロシア系住民虐殺の救済」なら事前(緊急でも直後)に国連に調査団を依頼すべきで、安保理理事国で親ロ派支配地域なら容易な筈なのに動きなく、ロシアも参加のOSCE監視員からの虐殺報告も無いなど、説得力が無い。

 

歴史的背景がある?

歴史の理解は重要だが、それで国際法上の国家主権が軽視できる訳ではない。この点、好き勝手な私論を述べる一部の歴史学者や政治家も困ったものだ。

 

確かにウクライナはロシア、ベラルーシ白ロシア)と共に中世のキエフ大公国をルーツとするが、東のロシアや西のポーランドなど、どの時代、どの関係を重視するかで結論は自在に変えられるので、きりがない。

 

例えば戦前日本でも任那日本府白村江の戦い、更にはジンギスカン義経説などが強調されて大陸進出の正当性を与えたし、逆に日本は中国の冊封(広く言えば属国)を受け入れた時期も長く、東日本や九州・沖縄は本来は原住民の土地とか言えば、日本も昔から純粋な独立国家だった訳でもない。

 

これら歴史の解釈と、近代国際法上の主権国家は分けて考える必要がある。

 

国際法は意味ある?

普段は「国際法は理想論で信じるのはバカだ、国際関係は力だけだ」と公言している論者が、今回は突然「ロシアは国際法違反だ」と口を揃えているのは奇妙でもある。

 

しかし法律の基本は共通ルール(最低限の社会的規範)だ。確かに強盗罪があっても強盗は無くならないし、法を守らせるには権力(強制力)が必要だし、更にどの程度から強盗かとかのグレーエリアや法解釈もあるが、それでも法があるからこそ罪かどうかの基準が存在し、理性的な議論も可能となる。

 

近代国際社会は国際法を基本として、確かに色々不完全ながらも、覇権国家ですら国際法の形で正当性と安定性を確保しているのも事実なので、単純な国際法無用論も万能論も幼稚で、理性的な議論をして欲しいものだ。

 

国連は機能不全?

安保理常任理事国の拒否権の背景は、第二次世界大戦を防げなかった国際連盟の反省で、戦勝国である五大国が将来も離脱しないための敢えて不平等な規定なので、これを無くす事は極めて困難だろう。安保理改革案も単に理事国の増加案がほとんどだし。

 

ただしアメリカのイスラエル擁護など大国は拒否権を多用しており、国連は世界連邦でもないので、不一致ならば機能不全は従来から当たり前で、今回が特別なわけではない。

 

プーチンは狂った?

独裁者は「何をするかわからない」と恐れられる事を望むので、安易な狂人扱いは良くないと思う。

 

残念ながらプーチンは従来からの路線(旧ソ連支配圏でロシア離れが見られた国では、親ロ派とロシア軍による占領・独立宣言・ロシアへの編入依頼)を継続しており、今回は地域がヨーロッパなので騒がれているだけでもある。

 

特に西側でこれらを軽視したのが日本で、日ロの独自外交は確かに必要だが、クリミア占領という純粋な国際法違反を(日本から遠いからと?)軽視したのは問題だったと思う。

 

バイデンは失敗?

バイデン大統領の「NATO加盟国は防衛するが、第三次世界大戦を防ぐためウクライナへの直接介入はしない」表明は「弱腰で、ロシアに自由度を与えて失敗」との批判も聞くが、多分「軍事行動の意図や範囲は隠した方が威圧できる」との古典的発想なのだろう。

 

しかしNATO加盟国以外の戦争に直接介入しないのは、共同防衛条約であるNATOとしては法的に当然だし、プーチン旧ソ連支配地域の件で威圧に引くとは思えない。

 

また自国内の懸念や反戦運動を事前に抑えて、ロシアからの批判にも「直接介入ではない」と言えるので、民主主義(法治国家)陣営のリーダー格としてはスタンス明確化は適切で、現時点でも有利に働いていると思う。

 

NATOはなぜ参戦しない?

NATOは加盟国間の軍事条約だから、まだNATO加盟国でないウクライナの防衛義務はない。

 

仮にロシアがモンゴルに侵攻したり、中国がベトナムを侵略した場合に、いくら国際法違反でも日本の自衛隊が参戦する義務が無いのと同じ。

 

NATOの東方拡大も悪い?

ウクライナでの戦争がNATOの代理戦争的になっているのは事実だが、NATOの東方拡大はポーランドなど各国の加盟要望の結果で、NATO側(特に仏独)はむしろロシアに配慮してウクライナの加盟も遅らせるなど、NATOが積極的に東方拡大を進めた訳ではない。

 

ロシアは旧ソ連諸国を引き留めようと国際相場より低価格の天然ガス供給を続けたが、西欧の魅力の前に離れていってしまった形で、残念なのは判るが、だからと言って軍事侵攻して良い事にはならないし、それでは「兄弟」は復元不可能だろう。

 

なぜ停戦できない?

ロシアの停戦条件が「停戦」というより「降伏」だから。日本への条件に例えるならば「日米安保を破棄しないと行動を起こす」と脅して、侵攻後は「日米安保を破棄して、降伏して、政権を渡して、北海道を譲ること」と条件を更に吊り上げた形で、どう見ても全面降伏で、停戦条件とは言えない。

 

ウクライナ側は単に即時停戦と撤退、つまりロシア側が侵攻前に戻る事を要求している。

 

ロシア軍は民間人を無差別攻撃?

民間人を狙った攻撃は国際法違反だが、残念ながらチェチェンやシリアでロシア軍は民間人への無差別的攻撃も多数報道されているので、ロシア軍としては特殊な行為ではなく、単に「ヨーロッパで兄弟国にも同じ事をするかどうか」だけの話と思う。

 

これは報道側も同じで、同等の残虐行為が中央アジアや中東より、ヨーロッパだと途端に大騒ぎする傾向があるのも残念ながら事実だ。

 

経済制裁は効いてる?

ロシアの防衛策や中国の天然ガス輸入もあり、既に持ち直し説と長期的には破滅説があるが、経済制裁は各国の運用次第だし抜け穴があれば弱まるので予測が難しいが、少なくとも北朝鮮やイランよりは耐えられるのではないか。

 

金融やスポーツのロシア排除は良いのか?

本来は政治や軍事から中立であるべきだが、今回は被害の程度も考えて特別にやむを得ない、というところか。

 

ただし問題(副作用)はある。SWIFTは政治的中立を前提にした国際決済システムなので、今回のロシア銀行の一部排除は約束違反だし、中国などが独自の決済網を拡大して世界金融が非効率になる恐れはある。

 

スポーツも、アラブ諸国から見ると従来より占領者イスラエルとの試合を拒否して、スポーツの政治的中立性規定から処罰を受けてきたのに、今回は欧米がロシア排除とはダブルスタンダードで人種差別、との批判もある。確かに国際世論が欧米視点で日本も影響を受けているのは事実と思う。

 

ロシア軍は弱い?

もともと多くの軍事筋は「投入兵力からウクライナ全土占領は無理だが、首都など主要都市は数日で陥落」との観測だったので、色々な推測が飛び交っている。ジャベリンだけで抗戦できる訳でもなく、仮に当初の電撃作戦は失敗でも、制空権確保が不十分とか、全体の指揮官が不在だったとか、大量の兵器を破壊せずに残して敗走とか、近代化された軍とは思えない。

 

推測の中では、権威主義汚職が蔓延して肝心の装備・訓練の手抜きや横流しが横行していた説が有力なのではないか。アメリカが莫大な支援をして実態が無いイラク軍や旧アフガン軍のように。

 

ロシア軍は現在も兵力で圧倒だが、他国への輸出や軍事顧問の評価は暴落中だろう。

 

ロシア語やロシア料理も悪い?

日本でロシア語の看板や料理店へのクレームも報じられており、愚かしい。

 

ウクライナでもロシア語は地方言語で、ゼレンスキー大統領もロシア語が母語なので、演説も常にプーチンや残虐行為を批判しても、ロシア人やロシア語は批判しないよう配慮している。

 

排斥行為は、むしろプーチンの「ネオナチや過激な民族主義者がロシア系住民を迫害しているから」との主張に正当性を与える愚かな行為だと思う。

 

降伏すべき?

人生観にかかわる話は極論が多いが、最後に決めるのは本人だろう。

 

「まずは人命最優先で降伏しろ」とか「いや、降伏すれば虐殺や強制移住させられる」とか言うが、降伏で100%助かる保証もなく、逆に占領地のウクライナ人が100%虐殺された訳でもない(キーウ近郊の同じ村内でも地区により大差があるようだ)。

 

人類の歴史ではガリレオなど服従した人も多いが、ソクラテスなど自分の命より信条を優先した人もまた多く、アドバイスは自由だが命令するものではないだろう。

 

日本の防衛費を倍増?

防衛予算は周辺の脅威状況を見て長期的に計画整備するもので「プーチンが恐いから倍増」とか「もしプーチンが辞めてソフト路線のメドベージェフとかが就任したら半減」とか、政治家が票目当てで安易に提案すべきものではない。

 

ウクライナの例を見て防衛意識を再認識するのは普通だし、中ロが警告的な行動を増やしているので偶発リスクは増加中だが、実は日本への軍事的脅威は冷戦期より高くないと思う。

  • ロシア・中国・北朝鮮はそもそも対日侵攻能力がほぼ無い
  • ロシアは長期間ウクライナと周辺にリソースの大半を割かざるを得ない
  • 中国が離島侵攻しても反撃容易、ロシア苦戦を見て台湾侵攻も後退か
  • 北朝鮮は韓国より弱小なので、対日は無視で対米の瀬戸際戦術ばかり

 

仮に自衛隊強化なら、高価でアンバランスな対米従属の正面装備お買い物より、まずは定員充足や基本装備改善だし、NATO諸国の装備も当て馬でなく検討すべきではないか。

 

憲法自衛隊明記?

ウクライナは戦力不保持で侵攻された訳ではないので、日本の憲法9条は全く関係ない便乗論。自民党案の自衛隊明記も、憲法は組織名を記載するものではないし、記載しても何も変わらないとの説明ならば、政治家の実績作りだけで意味は無い。

 

日本も核共有?

「日本独自の核武装は大変だが、共有なら容易かも」と思っているのかもしれないが、実現可能性が無く、政治的に無責任な議論だ。

 

NATOの核共有は、英仏より前線に近いのに核兵器保有の独・伊・ベルギー・トルコなどが、アメリカの保有する核兵器の運搬(戦略爆撃機)任務を分担(共有)するもので、核兵器自体の保有の共有ではないし、使用にはアメリカの承認が必要だ。

 

日米安保核の傘では、アメリカが第三次世界大戦のリスクを負ってまで日本を守るか信用できない」が理由の人もいるが、各共有もアメリカの承認が必要だから変わらない。

 

そもそも「アメリカは対日防衛義務があり、核の傘も提供しているので核共有は不要」と主張しているアメリカに「貴国は信用できないから共有させて欲しい」と交渉するのか?アメリカから見れば自由度が減ってリスクが増えるだけで合意可能性は皆無だろう。国内向けのやってる感アピールのために同盟国に迷惑をかけるようなものだ。

 

また核兵器戦略爆撃機の基地は敵側からの攻撃対象になるが、平地が限られる日本は軍事的に有利とはいえない。

 

今後は?

ウクライナの抗戦意思が強く、プーチンも妥協しないはずなので、チェチェンのように10年など長期化しうると思う。その場合はロシア軍は更に消耗して軍事強国とは呼べなくなるかもしれないが、ロシア連邦自体の解体説は可能性が高くない気がする。構成共和国は中央への依存が大きいので独立すれば弱体化しそうなので。

 

可能性が高いのは、東部2州を何割か占領した頃に停戦するが、帰属は絶対に合意できないので分断国家が長期間続く。つまりジョージアモルドバと同じ。

 

プーチン失脚の可能性だが、軍、治安部隊、報道機関、オリガルヒなど部下による財閥、正教会なども広く支配する利権が絡み合った権威主義体制なので、仮にプーチン本人が死亡や追放されても類似の後継者が表れて、社会が短期間で変わるとは思えない。権威主義体制とはそういうものだ。(北朝鮮と同じ)

 

そもそもロシアは中国や北朝鮮とは異なり法律上は民主的な資本主義社会だが、経済不安克服を背景に徐々に政府批判を統制して野党を弾圧して今の社会になった。これはムッソリーニヒトラーやトランプも類似で、どの民主国家も不安を背景に自由を軽視すれば容易に権威主義体制に陥りうるので、自由と民主主義は地道な努力が無いかぎりは続かない体制、と思う。

 

以上