らびっとブログ

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映画「博士の異常な愛情」この美しくクレイジーな核爆発

U-NEXT解約前に古い映画を再鑑賞してる。U-NEXTに特に不満は無いが、4 ユーザーIDあっても家族は見ないし、1人なら月額1990円は割高なので。

 

正式タイトルは「博士の異常な愛情 または私は如何にして心配するのを止めて水爆を愛するようになったか」、鬼才キューブリックの最後のモノクロ作品で、ブラックな風刺コメディでピーター・セラーズ主演(一人三役)だ。

 

小学生の時にTV、学生の時の池袋文芸座と、今回で3回目と思う。文芸座では観客が、陰謀論に陥った将軍の説明の「体液」あたりで笑っていたのがちょっと違和感。面白いけど、陽気にアハハと笑えるシーンなのだろうか。

 

「政府や軍の首脳陣のドタバタ劇」と思われそうな作品ながら、実は各登場人物はよくやってる。だからこそ「これでもダメとは、今の世界の方が変なのでは」との風刺が効いてくる。

 

  • まず美しい音楽と手描きクレジットにB-52爆撃機空中給油の映像が違和感なオープニングが洒落てる。
  • 爆撃機機長のコング少佐はテキサス訛りの不器用な軍人だが、「R作戦」発動後の機内スピーチは名演説と思う。「私は演説は苦手で、皆も複雑と思う。平気で核兵器を落とす奴は人間じゃない。しかし我々を期待している国民がいる。うまくいけば皆昇進できるぞ。人種や宗教の差なく皆一緒だ。」素朴ながら皆の不安を汲み取り、士気を高めて一致団結、モラルあり差別主義もなく、みんなでこのB52を応援したくなる(それが人類破滅になるのがブラック)。反軍や反米に見えないための重要な存在だ。
  • アメリカ大統領は決断まで20分の中、冷静に状況を聞いて、次々に手を打ち、酔っているロシア(ソ連)の首相に懸命の説得を試み、全面攻撃は即却下する。ほとんど理想的対応なのが凄い。これはイギリス派遣将校のマンドレイク大佐も。
  • ストレンジラブ博士マッドサイエンティスト風だけど実は解説役が大半。でもラストの「私に考えがあります。総統、私は歩けます」はナチス選民思想復活か、人類非運命論か、両方に解釈できそう。
  • そして美しい「また会いましょう、笑顔を忘れずに、青い空の輝きが黒い霧を払うまで」の名曲が核爆発連発映像にかかり、放射能半減期の100年後まで地下生活する人類の明るい将来を希望を持って歌い上げる?有名なブラックすぎるエンディングは、後の「時計じかけのオレンジ」や「2001年宇宙の旅」でのクラシック音楽(更には「DAICON IV」核爆発による地球再生)にも通じる映画ならではの価値転倒なミスマッチの妙ですね。

 

この作品は良く「米ソ冷戦時核兵器均衡を風刺」と形容されるけど、STARTなどの戦略兵器制限条約は色々できたものの、相互確証破壊(MAD)自体は今の米ロ間も全く変わっておらず、世界が慣れただけ。双方の規模も体制も中国や北朝鮮の比ではないのですけどね。

 

(参考)

予告編(なんか、わけがわからないですね)

オープニング

エンディング

町山智浩の映画塾!「博士の異常な愛情」<予習編> 

『博士の異常な愛情』シリアスドラマをブラック・コメディへと変貌させたキューブリックの革新性

 

(了)