らびっとブログ

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天皇は日本国民か?(法律論)

皇族は法律上は日本国民では無い」との伊吹氏発言が一部で話題だが、法律上は従来からの議論で両論ある。しかし「基本的人権を認めるべきなので日本国民」とか「パスポートがあれば日本国民」など、ちょっと変な話も見かけるので簡単に整理してみた。

 

まず話題の伊吹元衆院議長の発言はこちら(以下A)。(天皇だけでなく皇族もかは異論があるが)

国民の要件を定めている法律からすると、皇族方は、人間であられて、そして、大和民族日本民族の1人であられて、さらに、日本国と日本国民の統合の象徴というお立場であるが、法律的には日本国民ではあられない

 

これを批判した横田耕一 九州大学名誉教授の説明(以下B)。(こちらは皇族の話。ただし皇族会議はある。)

皇族の婚姻に関しての制約は法律上何もないので、制約されるという根拠がないわけです。『法的にはちょっと違う』という伊吹さんの発言は、基本的に間違っているといえます

 

上記A、Bを前提に海外の例も挙げて「現状では不明確で無国籍者とも思える、法整備を」との提案(以下C)。(面白い内容です)

皇族が国民かどうかすら説明がつかない法の状態は、いかがなものかと思う。

 

しかし天皇は日本国民か」は昔からの議論だ。整理してみたい。(話の単純化のため皇族を天皇に絞る。)

 

主な学説(詳細後述)。

  • A説:天皇・皇族は国民  ←通説
  • B説:天皇は国民ではない、皇族は国民
  • C説:天皇・皇族は国民ではない

  

  1. 戦前の「大日本帝国憲法」では「第1章 天皇」「第2章 臣民権利義務」で、第2章の各条文の大半は「日本臣民ハ」で始まる。天皇は君主で、臣民は臣下だ。当然ながら戦前の天皇は日本臣民ではない
  2. 戦後の「日本国憲法」では「第1章 天皇」「第3章 国民の権利義務」で基本構成は似ているが、第3章の各条文は「国民は」「すべて国民は」「何人も」、そして対象記載なし(例 「学問の自由は、これを保障する。」)など色々な表現だ。
  3. 学説では上述の3案がある。「国民案」も地位に応じた制約を認め、「国民ではない案」でも人権を全く認めない訳ではないので、結果に大差はないが、「天皇」や「人権」などへの姿勢が変わってくる。
  4. 伊吹氏などの伝統的保守派は、天皇と国民を分ける傾向がある天皇は現在も「君主」で同列は「畏れ多い」と考え、現行憲法は「押し付け」と軽視し、現行憲法の「日本国民」は「日本臣民」と考え、現行憲法の「天皇の地位は日本国民の総意に基く」などは「含まれない」に読めるし、そもそも「民(たみ)」は民衆や平民を指す、などなど(なお伊吹氏は過去に「天皇陛下万歳」の反復にも苦言。)
  5. 逆に戦後民主主義に慣れた層は「国民=国籍=基本的人権と考えると思う。こちらが通説だが、他説が非常識という訳ではない。
  6. ところで基本的人権が必要なので日本国民」は不正確。在日外国人にも思想信条の自由や納税義務はある。憲法の各条文で「国民は」は国籍保持者のみ、「何人も」は人間全て、との解釈もあるが、明確な単純化は困難だ。
  7. 次に「パスポート(日本国籍)ありが日本国民」も一概に言えない。天皇には戸籍も苗字もパスポートも無い。歴史的経緯では、戸籍は「臣民簿」で、苗字は「上から与えられたもの」で、パスポートは「政府が国籍証明するもの」(一般に君主は政府の上)なので。なお天皇にも住民票や住民税はあるが、それは在日外国人も同様だ。
  8. 海外の例でも君主はその国の国民か。イギリスは今も法律で「国王、臣民」を分けている。カナダやオーストラリアなど英連邦(コモンウェルス)諸国は今も国王がイギリス国王(同君連合)だが、エリザベス女王は各国の国民(多重国籍)なのか。
  9. 以上から天皇無国籍論もある。普段は日本人のように生活していても、日本で生まれ育った在日外国人も多く、日本国民の子供が事情で無戸籍・無国籍も実は多いから、そう不自然ではない。特に「国籍は君主が臣民に与えるもの」という立場では、君主自身が国籍を持たないのは突飛な説ではない。

 

なお個人的には、現在の天皇は「国家の奴隷」(三笠宮)で、職業選択の自由、居住の自由、そして実質的には言論の自由、信教の自由、婚姻の自由も無く、更に身分差別(血統)、男女差別(長男相続)かと思う。

 

歴史的には明治の「国営天皇」が不自然で、君主と非君主が中間半端な現行憲法により問題が拡大してしまった。

  1. 明治までは明文規定なく退位可、権威あり(血統による資格)
  2. 明治に法的に退位不可、君主の権利あり(選択不可の権利と義務)
  3. 戦後は政治権力無し、義務だけあり(選択不可の義務のみ=奴隷

 

以下のどちらかが良いと思う。

  1. 退位の自由を認める(皇室典範改正。権利制限は本人選択の結果に。後継者は遠縁含め探せば良く、それを国民が支持するかはその時代の国民次第)
  2. 憲法上の天皇廃止憲法改正。民間の神社、仏教、家元などと同様に、国民の支持が続く限りは皇室存続する。いわゆる尊皇的天皇制廃止案)

 

いずれの案でも国民支持による存続は実は現行憲法でも同じ。退位の自由や天皇制廃止を「左翼の陰謀」という自称保守派もいるが、天皇・皇室・日本国民などを信用しないから、近代的な法的強制(憲法による奴隷化)に頼っているのでは、日本の古来からの文化伝統とも関係ない。

 

(参考)

人権の主体⑤(学説の比較)

  • A説:天皇・皇族は国民(ただし特例あり)←通説(多数説)
  • B説:天皇は国民ではない、皇族は国民(特別扱いあり)
  • C説:天皇・皇族は国民ではない ← 著者(佐藤氏)

 

佐藤幸治日本国憲法論p141)

A説(通説)…日本国憲法下では、明治憲法のような皇族と臣民との区別は存在しないはずであるとの基本的認識から、天皇および皇族はともに享有主体である「国民」とし、ただ天皇の職務および皇位世襲制からくる最小限の特例が認められるとする説

B説…天皇が象徴にしてあらゆる政治的対立を超越した存在であることを重く見て、天皇は享有主体である「国民」には含まれないとし、皇族については「国民」に含まれるとしつつ、天皇との距離に応じた特別扱いが認められるとする説

C説…行為の世襲制を重く見て、天皇および皇族ともに「門地」によって「国民」から区別された特別の存在にして基本的人権の享有主体ではないと説かれる説

(中略)結局C説のように解さざる得ないと思われる。

 

天皇は国民か?(上記と同一内容の部分引用)

 

以下は憲法の「国民」も箇所(意味)により異なるとの見解。

皇族の「人権」どこまで? 目につく「不自由さ」(朝日新聞)

高見勝利・上智大名誉教授

まず、日本に定住する国家構成員という広いくくりの「日本国民」(憲法10条)には、天皇も皇族も、私たちと同じように含まれていると考えられます。そのため憲法が保障する基本的人権は有しているというのが前提です。

ただ天皇については、「国の象徴」(同1条)であり、政治の大もとを決める「国民(主権者)」からは除かれます。またその地位は「世襲」(同2条)で、「国政に関する権能を有しない」(同4条)とされているため、職業選択や政治参加などの権利は認められないと解されています。

 

 

(了)