らびっとブログ

趣味で映画、本、政治思想とか時々書きます(^^)/ ご意見はツイッター @rabit_gti まで

映画「ジョジョ・ラビット」に見るナチス

映画「ジョジョ・ラビット」(2019年、監督 タイカ・ワイティティ)を観た。

 

題名は「臆病者のジョジョ」の意味。コメディーだが主人公の少年ジョジョの心の友がヒトラーという一見あぶない映画で、アカデミー脚色賞受賞。

 

ヒトラーナチスも年月経過で色々な表現が一般にも許容されてきた流れですね。

 

例えば、後に「全体主義の起源」を書いた政治学者のハンナ・アーレントは、ナチス・ドイツから運良く逃亡できたユダヤ人だが、戦後のイスラエルでのアイヒマン裁判を傍聴して、彼らは邪悪な暴力主義者ではなく、むしろ我々と同じ小心者の人間と分析して、大多数の家族友人から非難され絶縁された。(なお周辺諸国は大量のユダヤ人亡命に対して国境閉鎖したため、多くが脱出できず強制収容所送りとなった。表面では反ナチスや理想を掲げても、目前の難民は見捨てたいのは変わらない。)

 

確立されたステレオタイプは強固。私が子供のころは、ヒトラーナチスは精神異常者で性的倒錯者の集団という主張が普通だった。(逆差別は不毛かと思う。「愛の嵐」なんて倒錯愛の映画もあったが。)

 

しかし、ヒトラーを人間として描いた「ヒトラー 〜最期の12日間〜」(2014年)や、現代にヒトラーがタイムワープしてくるコメディ「帰ってきたヒトラー」(2015年)などと同様に、本作も、相手を悪者に描くだけではなくて、あなたはどうなの的な視点もあって重層的なエンタメだった。勿論ナチスの主張や行為も後半かなり描かれている。

 

映画的には、主人公が映画デビュー作とか、コメディアン出身の監督がヒトラー役も兼任とか、観てから知った。多才だ。ビートたけしか。

 

大きなネタばれは避けるが、まずオープニングやジョジョの部屋が親衛隊などナチス風の凝ったデザイン満載で引き付けられる。そしてヒトラーの振る舞いや消え方が徐々に変化するのもうまいし、最後の方は記録映画かと思うほど演説が似ていてさすがコメディアン(これは少年の成長も表していると思う)。そしてジョジョの目線の高さに母親の靴のレイアウトがトラウマになりそう。

 

終盤では武器マニア風の女性事務員が子供達に「ほら、アメリカ兵にハグしておいで」と次々送り出すのが、ごく軽く描かれているのが却ってブラックだが、本国に攻め込まれて窮した国がやることはどこも大差ないということか。

 

つい、守備側は街頭に出て突撃しては不利だろうとか、敵占領直後に若い女性(ユダヤ人でもドイツ人)が身ぎれいにして家から出るのは危険とか心配してしまう。演劇に近いと思えば良いのですが。

 

いきなりソ連が出て、ここはエルベ川近郊かと驚いたが、直後の展開で納得。しかしこの使い分けはリアルだけどちょっとずるい。演劇に(以下略)

 

そしてラストは少女役のトーマサイン・マッケンジーの正面映像が目に焼き付いてしまったカットで終了。別の意味でずるい。しかし映画的な見事な構成でした。