らびっとブログ

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三浦瑠麗氏の徴兵制平和論は雑

三浦瑠麗氏の主張「日本に平和のための徴兵制を」が、ハッシュタグ #Amazonプライム解約運動 で改めて話題に。氏の主張はそれほど特異ではないが雑に思える。(最終更新 8/20)

 

 

三浦瑠麗氏の主張

まず、これを先に読むと、そう違和感ないのではないか(2019年)。シビリアンコントロールなどの表現は色々不適切と思うが。

「反論や批判を待っています」 三浦瑠麗が日本に徴兵制を提案する理由 | 文春オンライン

 

良く引用され批判されているのがこちら。長いが趣旨は上記とほぼ同じだ(2014年)。

三浦瑠麗「日本に平和のための徴兵制を」 | 文春オンライン

 

2020年7月にAmazonプライムのCMに三浦氏が起用され、解約運動発生後にCM削除された。

三浦瑠麗氏CM削除、「#Amazonプライム解約運動」との関係は? 会社側に聞いたが...: J-CAST ニュース【全文表示】

 

民主主義との関係

歴史的に民主主義は主体的な兵士が獲得したのは事実だ。

  1. 古代は君主による傭兵(戦時の用役も含む)が普通だった。
  2. 古代ギリシア/古代ローマ市民軍が民主主義の基礎になった(広くはゲルマン民族アメリカ原住民などの部族共同体も)。
  3. しかし中世は騎士/武家の軍事独占で長い身分制社会に。
  4. フランス革命市民参加の常備軍と近代国家が確立した。
  5. 2度の世界大戦で空前の徴兵/動員、後に民主化/男女平等の進展。
  6. しかし分業進展/兵器高度化/反対運動などで大多数は志願制に移行。

 

こう見ると「徴兵制=民主主義」論自体は、それほど突飛ではない。ただし2度の大戦は総力戦となり軍だけでなく経済力自体が国力となった。現在のアメリカ合衆国や中国も、経済力を背景にした政治/軍事/文化力で、既に兵士や徴兵だけの話ではない。

 

三浦氏の主張の問題点

三浦氏の論理は雑なので、必要以上の反発を受けるのではないか。

  • 三浦氏が言いたいのは徴兵制(兵士募集が志願でなく徴用)より国民皆兵(国民主体の軍)では。西ドイツで「軍の民主化には一般市民の参加が必要」と徴兵制を主張した例はある。しかし旧日本軍や旧ロシア帝国軍も徴兵制で「徴兵制なら民主的になる」とは到底言えない。重要なのは軍組織自体が全体主義的か民主的(軍事命令は絶対でも議論/意見保留/監査制度など)で、募集の方法(徴兵)ではないだろう。
  • 三浦氏は「リベラルが戦争推進、保守派は反対」説も主張している。これはベトナム戦争時に保守派がリベラル攻撃に使用した説(世界革命指向の元トロツキストが世界民主化戦争を推進した、など)で、保守派伝統のモンロー主義も受け継いでいるが、三浦氏自身も例示の湾岸戦争イラク戦争共和党政権(ブッシュ親子)で論理が合わない。そもそも戦争開始は政治イデオロギー以上に国際情勢や強いリーダー像にもよるだろう。
  • 特に批判の多い「血のコスト」だが、要は「民衆は軍を犠牲にしたがるが、家族や知人も参加の軍なら無理な戦争は主張しないのでは」程度の意味らしい。しかし第1次世界大戦の欧州各国国民の熱狂的戦争支持も、日比谷暴動や日中戦争泥沼化のマスコミや政府方針なども、全て徴兵制時代だ。「徴兵制なら国民が好戦的にならない」との主張は根拠がない
  • 上述の2019年の発言も、「シビリアンコントロールが強すぎると戦争になる」との趣旨で、「軍人は平和志向、国民は好戦的」との発想は一貫している。しかしシビリアンコントロールは究極的には「国民の代表/文民/最高指揮官である首相が軍人を統制する」ことだ。三浦氏の発想では「首相の指揮を軍が守らない方が平和」で、これでは軍部独走/軍閥で民主主義の真逆だ。また自衛隊が保身で命令拒否する事も平和との主張なら、逆に自衛隊侮辱だろう。
  • 思想系の学者が新規な発想や用語を使うのも一般的だが、「平和のための徴兵制」は細部が雑で、保守思想を時代や経緯を無視して断片的に寄せ集めて都合よく使おうとするから墓穴に思える。
  • 仮にまともな徴兵論なら、現代では良心的兵役拒否(非軍事の活動強制)も併せて論じないと、自由主義(選択の自由と公共の義務の両立)の立場では意味が無いとも思う。

 

(了)