一般公開の翌日(3/30)に満員の二子玉川で観て、3時間は長いし私は登場人物を覚えられないので後半困ったが、映像と音響で人間の葛藤をずっしりと描写して見応えあったけど、世間の誤解が多いのには呆れた。
主要人物や歴史を知ってから見る方がお勧めだが、いきなり体験も良いと思う。なおIMAXなら全画面見えると宣伝中だが、基本は人間ドラマなので拘らなくても良いと思う。
(↓劇場にポスター皆無のためシアター入口の液晶表示の画像)
①昨年からの誤解
この映画は「日本人の感情を害する恐れ」などと、昨年夏アメリカ公開済なのに日本では今春に公開延期されたが、当初から誤解が多かった。
- 主人公は「原爆開発の父」だが対日投下や水爆開発には反対した人物
- 広島・長崎はアメリカで公式に正当化され続けている(異論もあるが)
- 監督は日本でも人間描写に定評あるクリストファー・ノーラン
- 昨年の「バービーとのコラボでの公式不適切行為」は日本側の過剰反応(両作品コラボのファン画像に「キノコ雲を背景に笑うバービー」が出るのは当然だし、公式は「いいね」と「(公開の)8月が楽しみ」と抑制的な対応、謝罪はクレームを受けたので「気分を害した事は遺憾」との中身の無い内容)
オバマ大統領らの広島祈念公園での献花でも謝罪を避けたが、良し悪しは別として、アメリカの立場では当然だろう。世界的な話題作を日本で延期する理由には到底思えない。
日本人は「自己立場のお気持ち」を過剰に対外主張して、自己規制に迎合する、逃避的で脆弱な島国精神に退化したのかとも懸念する。
②作品を見ての誤解
しかし作品は予想以上に原爆をネガティブに描いていて逆に驚いた。
- ヒンドゥー教聖典の「我は死神なり、世界の破壊者なり」の反復
- 何度も挟み込まれる衝撃的で恐怖を煽る光と音
- 原爆投下で歓喜する人々と対比させた、沈痛な主人公の映像と音響
- 広島・長崎(当日/放射能)や東京大空襲の犠牲者数を暗く聞く
- 原爆投下を決定した政治家の、安易に見える描写
- 原爆で大気が連鎖爆発との世界滅亡説を使った、見事なラスト
ところが同じ作品を見て「被爆の映像が無いのは被害軽視」や「投下で歓喜するシーンが不快」などの感想も多い。もちろん感覚も感想も個人の自由だが、これは主人公や関連した人々の観点での作品で、主人公は被害を直接見ておらず、日本人も戦時中は南京陥落や真珠湾で国中で歓喜したし、そもそも対比を含めた露骨なネガティブ描写に気づけないのは不思議に思う。
③信念が揺れる話
主人公は「特定の信念を追及した英雄」ではなく、「揺れる」描写が人間的だ。
- 同胞を迫害するナチスに先を越されてはいけないと、原爆開発
- ドイツ降伏後の対日投下に反対するが決定権なく、「人類は戦争ができなくなり、国際協調による平和な世界になる」と弱々しく投下を正当化
- 「原爆の父」と称賛後は、水爆開発には反対
- 妻や子供との生活は安定しないし、食事のシーンもほぼ無い
- 赤狩りでは妻から「なぜ戦わないのか」と批判されるが淡々と対応
それを説明セリフではなく、映像と音響で見せるところが醍醐味だ。
④組織を描いた話でもある
人間は社会的動物だが、人間と組織との関係もかなり意図的に描かれていたと思う。
- 組合活動はするが、党への服従は好まず非党員を貫く
- マンハッタン計画で最初は軍服を着るが、仲間に批判されすぐ脱ぐ
- 機密保持で「区分化」を繰り返し要求されるが、時々無視する
- 本音で主張しても、自分の任務としか返さない軍人、相手をあしらう政治家
- 功績者でも批判者はアクセス権剥奪して追放し、印象操作を計画する組織
- 赤狩りでは保身や裏切り、更には個人的な思い込みの怨恨まで混在
前半は原爆開発、後半は赤狩りを背景に、主人公と周囲の人間を、監督得意の重圧な人間描写した作品と思うのでした。
以上です。