らびっとブログ

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広島アニメフェスの最後

広島国際アニメーション・フェスティバルは2020年の第18回を新型コロナ対応でオンライン開催中ですが、次回2022年より芸術祭に一新、更に従来体制は今回が最後と報道された。私は数回ほど個人参加しただけですが、あれこれ書いてみたい。(最終更新 8/23)

  

 

今年が「最後」との報道

広島市の発表は以下の2段階。

  1. 2020年1月 総合文化芸術イベントへの一新を発表
  2. 2020年8月 第1回以来の体制(共催 ASIFA-JAPAN共催、フェスティバルディレクター 木下小夜子さん)は今回が最後。以後は地元団体による開催に。

 

8月15日に以下記事が掲載された。正確には次回の形式は未定なので 「最後」はカッコ書きになっている。無料登録で全文が読めます。

 

同日の朝日新聞 夕刊 2面はこちら

 

記事は当フェスを実現し継続させたディレクターの木下小夜子さんへのインタビューが中心なこともあり「根耳に水。残念です。」が中心のトーンになっている。

 

またアニメーション研究家の五味洋子さんツイートによる広島市サイトの資料「総合文化芸術イベント基本計画策定支援業務 基本仕様書」はこちら。

 

 ここでは従来イベントの中心である「コンペティションの充実強化」と、長編や音楽を含めた拡大、市民参加(敷居を下げる)、多くの人の呼び込み(経済効果)などが併記されている。(お役所文書は併記が多いし問題なのは優先順位だが。)

 

なお第18回広島フェスのサイトはこちら。過去大会の受賞記録もある。

広島国際アニメーションフェスティバル HIROSHIMA 2020 [2020.8.20(木)-24(月)]

 

広島アニメフェスとは

1985年の「被爆40周年」を契機に広島市などが主催、国際アニメーションフィルム協会日本支部(ASIFA-JAPAN)が共催。ASIFA公認の世界4大アニメーション祭アヌシー、オタワー、ザグレブ、広島)の1つ。ほぼ隔年開催。

 

このフェス開催に駆け回ったのは木下小夜子さん。過去に夫の木下蓮三氏(故人)と短編アニメ「ピカドン」を製作して広島に。中心イベントのコンペティションには、グランプリと並んでヒロシマ賞(平和のためのアニメーション)が設けられている。

 

会場のアステールプラザにいると、世界的に著名なアニメーション作家が歩いてたり、木下小夜子さんが縦横無尽に歩き回ってニコニコと歓待したり紹介したり話題を振ったり大活躍に見えた。失礼ながらディズニーランド盛り上げ役のミッキーマウスのようだ。

 

木下小夜子さんはASIFA会長 兼 ASIFA-JAPAN会長 兼 大会ディレクターだが、部屋の奥で座ってる事務局長ではなく、作家集団ASIFAとのコネクションと巨大イベントを回すバイタリティに圧倒される。ライフワークなのだろう。

 

私は朝から夕まで会場を回って、夜はお好み村がパターンだった。東京から旅費はかかるが、数日まとめて色々鑑賞できるので実はお得なイベントだ。(結婚後は広島出身の妻に、お好み村は観光客向けと叱られ毎晩広島市民球場に連行されたが。)

 

アートか一般向けか

これは第1回の直後から繰り返し言われている。

 

広島フェスの中心のコンペティションは、一般のテレビアニメや劇場版などの商業アニメではなく、短編中心のアートなアニメーションでファインアート(大衆芸術に対しての純粋芸術)とも。いわゆる「アニメ」と「アニメーション」の区別なら後者だ。

 

だから「アニメは子供向けなので市民が気軽に参加できると思って開催したら、一般人にはわからない芸術的作品など敷居が高くて当初歓迎の市民の熱意も下がった」との批判は常に聞こえた。

 

これに対して木下小夜子さんは「そいういう声も多かったが、続けていくことで、世界に認められたアートなイベントなんだという理解が徐々に広がったと思う」と話していたと思う。しかし今回遂にちゃぶ台返しされたのかも。

 

アニメ(に限らないが)大多数の商業系と少数派のアート系の分離対立?は根深い。よく見れば相互の影響や交流もあるのに。いわゆるアニメファン内でも昔からと思う。

 

個人的には、基本はテレビアニメだったが、学祭でNFB(カナダ映画庁)のマクラレンや「風」や「クラック!」を気に入って上映し、アニメーション'80とかアニメーション研究会連合などの自主制作アニメーションも観に行った。

 

どれも面白いから見るだけなのに、「自分はテレビアニメしか興味ない」とか、逆に「商業作品は敵だ」みたいに世界を分ける人、わざわざ他ジャンルを批判する人が結構多く思えた。時には大学同士や自主制作サークル間でも。壁を作りたがるのは、対抗心なのか、集団心理なのか、ただの細分化なのか。不思議だ。

 

知人のアニメ演出家はアニメスタジオで広島フェスに誘ってもほとんど来ないと言っていた。知人のアニメ研究家は毎年広島フェスを精力的に取材してはアニメージュに記事を書いてるが、どれだけ読まれているのだろう(昔アステールプラザ内で東大SF-Aメンバーをフランス語通訳に拉致してたけど)。新海監督は「君の名は。」で転向したと随分叩かれたと書いていた。

 

もちろん広島フェスも商業作品を無視してる訳でもなく、大会には色々なプログラムがある。子供向けの一般向け作品を別ホールで上映したり、小部屋での自主制作のワークショップなど。

 

 

また公式には言えないが口頭なら言える事はある。ILMスタッフ講演でのジュラシックパークのCGの裏話では、出演者帰国後に修正が入ったからCGスタッフが演技して顔だけCGで貼り付けたとか。

 

また通訳さんが「セル」や「FTP」を判らずILMスタッフにいちいち質問してしまい、通訳は各分野の知識も必要と痛感させられたのも現場リアルタイムならでは。テレワークでもメール、Web会議、チャット、電話は使い分ける。優先度は変わるが対面の利点はゼロにはならない。

 

しかし「アニメは子供向け」との思い込みによる文化摩擦も色々ある。

 

ごく普通に見える親子づれがコンペティションに入って来るのを見かけると、多分期待に沿えないなぁ申し訳ないような気持になる。逆に私が子供を連れて入った年は、通り過ぎる人が何組も「このイベントは子供向けではないよね」と聞こえるように話して、あー教えてくれてるんだありがとうと思ったりの逆パターンも。

 

また「アニメのイベントだからみんなで出品しよう」と学校等で多数の集団習作を送り付けて国際審査員が延々と素人映像を見させられるのも問題となったようだ。中にはダイヤの原石があるかもと思いながらも、自分の知人以外の作った素人映像を見続ける苦痛は経験者以外にはわからないのかもしれない。

 

「外国人を見たら英語で話しかけましょう」と同じで、基本は良い事でも集団でやると迷惑行為になってしまう。(審査方法も徐々に改善されたようですが。)

 

今後に注目

結局アートなど特化型イベントの継続にはメディチ家みたいな「金は出すが口は出さない」都合の良いパトロン的な理解が必要だけど、民主主義では政治家や市も身近な一般市民の声を無視しずらいのも事実と思う。

 

私は広島市は、こんな分野限定のハイレベルな国際イベントを長年主催して、凄いものだとずっと思ってきた。

 

(良い意味での)権威ある賞は一朝一夕には作れない。信頼実績がなければ参加も増えない。しかし信頼喪失は築城3年落城1日。そして権限は市にある。

 

2年後の組織は未定だが、仮にコンペティション従来品質を保つにはやはりASIFAとの連携は必須に思える。仮に単純な市民参加なら良くある地方イベントになってしまうのでは。

 

海外や東京から有名アーティストを呼んで一時的な目玉にする以外には、築き上げた国際的評判が消えてしまえば経済効果も果たして出るものだろうか、と心配になってくる。(行政主体のイベントは方向性散漫で取らぬ狸の皮算用に終わった例が多いと懸念する。)

 

一般論として、適時見直す事自体は良い事だ。変化も必要だ。ただの旧守やノスタルジーでは未来が無い。世代交代も必要かも。本気で変えるならば明確な方針とリーダーシップも必要だ。

 

ただし自分のコンピテンシー(優位分野)を見定めて選択集中する事は、どんな組織でも意外と難しい。あれこれ変革したいのも人情だが、下手すると「支配権奪還、人民参加」という名の文化大革命(文化破壊)かも。

 

全国や世界の都市の中で、広島市が既に持っている優位点は何なのか。それを殺さず伸ばすにはどうすべきなのか。

 

建設的な方向に進むのか、今後に注目したい。

 

追加情報

8/16 朝日新聞の「小原篤のアニマゲ丼」に、前日の記事の詳細版を掲示。これも同じ無料会員登録で読めます。

www.asahi.com

 

上記アニマゲ丼を読むと広島市の方針は以下かと。

  • アニメ祭は一般市民にとって敷居が低いとは言えなかった
  • 音楽や長編を含め、市民に開かれ、もっと気軽に参加できるイベントに
  • プログラムは地元団体が作る、業者委託はありうる(ASIFA共催はNG)

 

行政ガバナンス的にはわかりますが、やはり以下に思えます。

  • 良くある地方都市文化祭に変質の恐れ
  • 国際アニメフェスは実質終了、または別都市?

 

8/16 自主制作出身でもある片淵監督のツイート。もはや過去形で書かれている...

 

8/16 アニドウなみきたかしさんのツイート。

 

8/17 広島市が地元団体として想定のNPO広島アニメーションシティのさとたえ/まつうらたえこさんのツイート。

 

8/19 五味洋子さんのツイートと記事。

 

(参考)1月の「一新」発表

以下は上述の、2020年1月の「広島国際アニメフェスから芸術祭への一新」の発表と、その記事です。

 

2020年1月4日 中国新聞。無料登録で全文が読めます。

www.chugoku-np.co.jp

 

上記の記事には、2019年9月の市議会一般質問で「短編アニメの芸術性は高いが、幅広い層への浸透が困難で認知度が低い。インバウンド促進や産業創出につながる内容に見直すべきだ」との声

 

しかし常識的に見れば、前年9月の一般質問から1月の「一新」発表は短すぎる。内部的に方針を固めたうえで、形を整えるために議会の質問をお膳立てしたと見るのが妥当だろう。

 

そして木下小夜子さんは「アニメ業界から信頼され、広島の誇りとなる映画祭に育ってきた。近く臨時総会を開き、なぜ見直すのか、市から説明を聞いた上で今後の対応を協議したい」との発言が書かれている。

 

しかし上記は結局、8月の朝日新聞記事まで(少なくとも新体制の)話は聞けなかった事になる。普通に考えれば、市が相手からの巻き返しや混乱を避けるために中途半端な交渉は避けて、内部で方針を固めて外部には漏らさず、一気に「もう決めた事だ」と「共催切り」をした形と思う。(ビジネス界でも強いパートナーを切る際には良くある手法と思う。)

 

そして上記の中国新聞報道を受けてのアニメーション・ビジネスジャーナルの記事。総合芸術祭が浮上した背景と、文化庁も含めた今後の映画祭のありかたが問われるとしている。現在でもその通りではと思う。

animationbusiness.info

  

(参考)広島市サイトには以下もあります。

広島市の「市政へのご意見・ご要望」

 

2020/9/11 続編を書きました。

広島アニメフェスは今年で打ち切り - らびっとブログ

 

 

(了)