らびっとブログ

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映画「カメラを止めるな!」のワンカットと悪役評価

話題作「カメラを止めるな!」(2017年)は劇場で1回、テレビ録画で3回見たが、スピンオフの「ハリウッド大作戦」を観る前にとU-NEXTで見直した。公開当時はSNS時代なのにネタバレ防止がかなり守られて映画ファンのモラルも話題となった。

 

最初は既に評判が高まってからだが「冒頭37分はワンカット・ワンカメラ」だけの知識で観て、何故か静かな劇場で、監督が実は私怨で女優・男優に詰め寄るシーンは吹き出してしまった。

 

この作品は映画製作や業界モノに興味がある人には面白いと思う。でも現実から離れて美しい映像や感動ドラマを求める人には「なにこれ」かも。「面白さがわからない」という感想も結構あるけど、それでいいと思う。

 

まず冒頭37分は本来「違和感だらけの素人フィルムだ金返せ」と思わせて、後半で伏線回収(というか種明かし)する構成と思うのに、個人的にはワンカットが凄すぎて驚愕して、いまいちのれなくて困った。

  • もちろんB級ゾンビ映画は、特殊メイクとカット割りで持ってる低予算の代表格なので、「ゾンビ映画をワンカット・ワンシーン」は聞いただけで無謀だ。
  • そこでワイドショーの芸能人街歩きのように、絵になる地点は決めるけど後はカメラが単に役者に同伴する形と思っていた。
  • ところがいきなりハイライトシーンで個々のカット(?)が本格的、廃墟の特徴的な丸窓や天井や機械をうまく映す、カメラは室内別通路で並行移動、そして劇中劇とスタッフ視点の間の切替もスムーズ(監督がカメラの後ろに回り込むと劇中劇復活とか)など、37分間の撮り方を綿密に計算してたとしか思えない。
  • 更に後半は細い地下道や屋上階段で、スタッフ並走もできずカメラがこけたら全部取り直しで、無謀すぎ、バカなんじゃないの(ほめ言葉)と手に汗を握ってしまった。

 

そして後半のメイキングもどき。

  • よろしくでーす」は何回見ても本当にムカつく(これもほめ言葉)名セリフだ。
  • 多数のスタッフがカメラに映らないよう黒子として大活躍するのが目玉だ。
  • しかし何回見ても事故で参加できなかった2名(劇中劇の監督役とメイク役)は印象に残らない。もう少しキャラ立てても良かったのでは。(すみません顔を覚えられない人なので。)
  • 好きなシーンは主人公の監督がラストシーンの変更を迫られた時に娘の真央がそれを見つめるカット。他よりやや長めで、何も言わない、動きもしないが、制作者の情熱が親子間で初めて共有できた瞬間だ。主人公の「わ、わっかりました」の飲み込むようなセリフは社会人なら共感できるのでは。

 

最後に。2人のプロデューサーはもちろん「上の都合で現場に無理難題を押し付ける悪者役」だけど、社会人視点で見ると結構有能。何故かこの評価は少ないけど、色々に思えるのは深い。

  • イケメン・プロデューサーの古沢は、思わぬトラブルに直面しても、すぐに次善の判断をする。現場の手伝いはしない。実は実世界で一番困る上司は、判断を先送りしたり曖昧にしたり、逆に現場の手伝いを始めて本来の役割(ロール、決断)から逃げてしまうこと。特にテレビ生放送なら、職人の拘りより放映を守る事が優先だ。最後に放送中止に傾いたのも、良い手段が無ければ正しい判断だった。(強要されたにせよ)彼がOKを出したのでラストシーンもできた。決して個々のスタッフに介入したり、精神論などの圧力はかけない。日本人的には悪役かもしれないが、自分の役割を判っているマネージャで、ある意味理想の上司かと。
  • キャラ抜群のテレビディレクターの笹原は、無茶な企画の根源だし、トラブルを「こだわりのポイント~」などと適当な事を言って最後はスポンサー?と飲みにいくなど終始現場無視だ。しかしもし真面目なプロデューサーなら、スポンサーにトラブル続出がばれまくりで、放映中止されなくても責任や賠償や処分で現場を巻き込み大騒ぎになる筈なのに、結果的に上層部から現場を守って大成功の形にしたのは凄い。彼女の場合、ごまかす以前に本当に判って無いようだが、しかし不思議と現場とは別世界で、明るさで会社や人間を繋ぐ人もいて世の中は回っている面もあるなぁと痛感させられた。

 

無茶もトラブルも続出の困った世界だが、結果的に皆いいチームだったと思えるハッピー映画でした。

 

「カメラを止めるな! スピンオフ 『ハリウッド大作戦!』」 - らびっとブログ

(了)