らびっとブログ

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漫画「アオイホノオ」と「DAICON III オープニングアニメ」

DAICON III OPENING ANIMATION」(1981年)の話を目当てに漫画「アオイホノオ(1~22巻)を読んだ。伝説的な自主制作アニメーション「DAICON III OP」やその流れの「DAICON IV OP」や「電車男 OP」などを振り返りたい。

(2021/2/21 YouTube DAICON III リンク更新、2021/3/26 「研連しりとり」リンクを追加、2021/4/11 リンク追加)

 

 

まとめ

 

DAICON III OP」は第20回日本SF大会(大阪、DAICON 3)のオープニングフィルムとして、当時学生でアマチュアだった庵野秀明赤井孝美山賀博之らが製作して一部で爆発的人気を得た伝説的な自主制作アニメーション。

 

DAICON VI OP」は第22回日本SF大会(大阪、DAICON 4)用に、上記「DAICON III OP」の成功を受けて結成された「DAICON FILM」(後のガイナックスの母体)が制作したオープニングアニメーション。

 

電車男」オープニングは上記「DAICON VI OP」が元ネタのテレビドラマオープニングで、後にテレビアニメ版「月面兎兵器ミーナ」なども作られた。

 

アオイホノオ」は作者やDAICON FILMらの面々を実録暴露的に描いた自虐風コメディーギャグ漫画とでも言えばいいのだろうか(^^;

 

DAICON III OPENING ANIMATION

 

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当時のおたく系サブカル界で漫画のあずまひでおに相当する衝撃があったと思う(キャラもあずまひでお調だけど)。自主制作アニメながら「アニメック」などアニメ各誌で大々的に取り上げられて、影響を受けた自主制作アニメも続出し、更にはその後のテレビアニメの新潮流(従来の「トリトン」「ヤマト」「ガンダム」など作品が先に在ってファンが支持するだけでなく、製作側がファンが好きそうなものを勝手に詰め込む「マクロス」や、各話作画・各話演出暴走の「うる星やつら」など)を許容し支持するファン層が形成されたターニングポイント的な作品かと思う。

 

それまでの自主制作アニメーションはプロの映像作家中心で、家庭用8ミリフィルム普及後も大森一樹など制作指向や美大生など芸術表現指向がメインで、1970年代後半にはグループえびせんなどエンターテイメントな制作集団や、中大アニ研早大アニ研などのTVアニメの影響も強くパロディやセルも含む自主制作アニメも登場していたが、全国区ではコミケや同人誌はあっても、「(おたくな)ファンによるファンのためのアニメ作品」は無かったと思うので、凄いカルチャーショックだった。「メカ・女の子・爆発(のみ)」で「著作権無視、二次創作動画の全国区元祖」と思う。

 

インターネット動画配信どころか、パソコン通信もビデオレンタル屋も無い時代なので、各アニメ誌を買ったり立ち読みで暗記し(すみません)、雑誌「月刊 ぴあ」で上映会を探して、東大駒場キャンパスでの東大SFアニメ研(SFA)上映会で見たのが最初で、他の自主制作アニメ上映会でも1~2回見たと思う(1982年の全国アニメーション総会には庵野氏本人が参加者として持込み上映。)

 

どの会場でも大ウケしたのが、赤井孝美の女の子や、「宇宙の戦士」のスタジオぬえ風パワードスーツが動く、イデのマークで笑い、ギガント炎上の再現度で「おおー」の歓声、そしてヤマトの大爆発で大歓喜(ヤマトは前年1980年の劇場版3作目で西崎のご都合商業主義が露骨になり、従来ファンの間で裏切られた許せんとの怨嗟の声が溢れ却っていた)。

 

個人的に感動したのは

  • 素朴な駆けっこから唐突な空中戦への転換など全編で音楽と作画がドンピシャの脅威の編集が、数百回は見返しても絶妙。枚数節約してポイントだけ拘り作画の対比。
  • 着地シーン。背中に推進器なので女の子は足を前にして着地前に噴射オフ、重量物のパワードスーツは仰向けで四肢バランスとり前かがみ着地という合理的リアル描写はTVアニメで見たことなく、同時にかわいくユーモラスとは驚愕。
  • 「道中に襲ってくる色々な敵(えすえふ)をかわして約束のDAICON(会場)へ」の構成が参加者に感情移入できて「いよいよ開幕です!」の大会オープニング王道感。主人公は普通(武器も学用品)で、悪者がえすえふなのもSF的相対化&自虐で逆に親近感。

後にビデオテープが1万円で販売され、たしかVHSまたはベータを選択可だったが、貧乏学生で、ボランティアや実費・小遣い程度も多いファンジン界での露骨な金儲けな大阪商人に反発して買わなかった(赤字解消で開始と知ったのは後年)。

 

今も、個々の技術レベルはともかく、懐古感情を除いても名作だと思う。

  

この後10年は影響を受けた作品が続いたが、個人的に特に感動したのは

  • 慶大アニ研「Powerd Suites」(ペーパー自主制作)アニメーション研究会連合合同上映会で。端正な線と浮遊感が素晴らしい。死ぬまでに再見したい(^^;
  • 「SHIBACON」(ペーパー自主制作)淡々とした作画が逆に魅力的。作者の風穴さんから大変丁寧なファンレター返信を頂いたのも感動でした(^^)

 

なお慶大「Powerd Suites」の雰囲気は(オリジナルではなく、恐らくアニ研連内部保存用のビデオテープを参考に後年リメイクした)「県連しりとり」の中の3つ目で伺える。オリジナルは線も動きもよりシャープな気がするがセンスは伝わると思う。

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そして「DAICON III」によって、同人誌界に続いて「ファンでもアニメをやれる、新時代が来るのかも」ムーブメントを感じたのでした。

 

DAICON IV OPENING ANIMATION

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成功した「DAICON III OP」の2年後、技術レベルは格段に向上したし凄いけれど、個人的にはいまいち感情移入できない。

  • 「III」の「素人でも手間かけた短編なら、商業アニメより濃い映像もできる」ではなく、プロ投入を事前宣伝。
  • ビデオ販売目的が露骨な、冒頭から過剰書き込み(静止させないと到底見切れない映像を作るのが凄いのか、するにしても段々が良かったのでは)。
  • 何よりストーリーや「大会のオープニング」感が少なく、「凄い映像を連続すれば凄い」感(2番煎じはできない、広く受けたいのはわかるけど)。

 

またアニメ研究家の原口正宏の説明「IIIはあずまひでお風、IVはあだちみつる風のキャラクターなのが、この2年間の時代の変化を感じる」もあるかも。個人的にはこの手のファン要素陳列的作品は、「不条理日記」や「SHIBACON」など、IIIのように主人公はやや無表情な方が空想が広がる気がする。

 

アニメック」に、空中戦は板野一郎板野サーカス)、当時では大胆作画のガッツポーズは平野俊弘と書いてあった気がする。

 

とはいえ庵野秀明の「核爆発」は別格。従来はニュース映像でしか見なかった超常映像がアニメで、しかも「あっ、エンタメ作品で核爆発はまずいっ」と思う瞬間に花吹雪で「逆破壊(地球復旧)」と判る秒の演出は職人芸。(ただその後、話がどう繋がってるのかわからないけれど。)

 

以下は1955年ネバダ核実験場のニュース映像。家や森の爆風は1分30秒以降。こちらも凄いです。来るべき核戦争に備えて自国兵士に平気で被爆させてるのも、その映像が公開されているのも凄いですが。

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電車男オープニング

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2chは以前から使っていたが、テレビドラマは逆に家族が喜んで見てたが私は見なかった。この作品のヒットでリアルの2chではロマンスや友情を夢見る一般人の入会が続出し、しかし2chは決して一般人に親切な世界では無いので、迷惑だ、馬鹿か、とっとと出ていけと集団で罵倒され瞬時に追い出されるという、双方に不幸な状況が続いた。

 

オープニングは「DAICON IV OP」をベースに、「ダイコン」を「ニンジン、ウサギ、アキバの電気街と電車」に変えて、一部「DAICON III OP」の連装ミサイルも加えて、一般向けにしてなかなかイメージ保ってるかとは思う。

 

個人的には太陽系はやはり最後のキュイーンのところで電車男ロゴに変化して欲しかったけど、作品の方向性上はこちらかも。

 

アオイホノオ 

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『アオイホノウ』デジタル版 11巻 113p

 

島本和彦は初期の「炎の転校生」から、古典的ヒーロー物の形を借りた、精神自虐ものが相変わらず面白い。そして「アオイホノウ」は当時の関係者の暴露ものでもあるけれど、アニメや特撮などのサブカルチャーが徐々に市民権を得ていく時代の雰囲気や、衝撃的だった作品のポイントなどがうまく描けていると思う。

 

同時期の学生なら、ビデオデッキは名機SONY J9が憧れだが超重いとか(私はスリムなSONY F11まで待った)、プロとアマの境界が一気に流動化して妙な熱気が溢れ、新世界に飛び込むチャンスなのか一時的なブームなのかと色々議論したり悩んだり、他者を馬鹿にしてみたり、コンプレックスだったり。

 

ところで黎明期は往々にして美化されて記憶されがちだけど、色々なデマや内紛で不毛な対立したり、有名人の名前を勝手に使ってボロ儲けする人は当時も沢山いたし、いつの時代も同じかと思う。「アオイホノオ」は怪しげな人も沢山出てくるけどコメディーになってるのがいいですね。

 

ただ同じエピソードを使いまわして多数のページを使うのは、連載物の宿命もあるけど薄まって少し残念。続きが楽しみです。