らびっとブログ

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映画「アイの歌声を聴かせて」の新しいロボットの描き方

「アイうた」の感想の続きで、AI(ロボット)の描き方について改めて3点。

 

なお早期打ち切りが懸念された本作は、一部ファンによる熱心な布教もあり、なんと公開2か月後の現在(12月下旬)も一部都市で上映中なので公式サイトの上映情報を見て劇場での鑑賞がオススメです(中身の無いこのブログでも「アイうた」感想だけアクセス多めが続いていて熱心なファンが多い印象です)。

 

 

1.IoT(モノのインターネット)が普及した街

多くの方が言及のように、舞台は一見すると平凡な日本のローカル都市ながら、IT会社の実験都市との設定で、自宅の壁カレンダーにも玄関にも田植ロボットにもAI、つまりネット接続のインテリジェントデバイスが組み込まれていて、アレクサのように音声応答で気軽に指示できるのが、今風のIT展開イメージでリアルだ。

 

一番なるほどと思ったのは、ロボットは誰でもスマホらしきデバイスを向けて簡単に緊急停止できること。つまり、故障や暴走の可能性は一定程度は社会に許容されていて、非常時は近くにいる人が気軽に止めれば良い、との超ポジティブな発想で、これは新しいと思う。

 

古典的SFではロボットや人工知能の暴走や反乱防止のため、有名なアシモフの「ロボット3原則」などの信頼性設計や、それにまつわる推理や展開、そして非常停止手段などが大きなテーマだった。つまり高いレベルの安全性の保障の実現が、ロボットの社会展開の大前提とされていた。

 

しかし実は人間は日常的に自動車や医療機器などのリスクも高い道具を、故障すれば停止して交換すれば良いと思って多数使っているので、ロボットも動作中はなるべく近づかず、異常に気づいた人が気軽に非常停止して後はメーカーを呼べば良い、という割り切った発想は、実は実現可能性が高そうで、なるほどだ。

 

 

2.シオンがロボットとの描き方

シオンは緊急停止時に、腹からいきなり角ばった機器を射出して停止するのが凄い(笑

 

水着でもクラスメートにバレない精巧な人間型ロボット(アンドロイド)なのに、「そこだけ古風メカか、んなバカな!」なギャグシーンでもある(強いて考えれば、周囲にも一見して停止済がわかるし、駆け付けたメーカー技術者用のローカル操作パネルや交換可能バッテリとかが入っているのだろうけど)。

 

しかし古典的ロボットの鉄腕アトムDr.スランプのアラレちゃんのようにポロリと首がとれたりはしないし、機器射出時の腹も実は服に隠れて毎回見えないし、社内で多数の機器にケーブルで繋がれているシーンも実はベッドの病人のようにも見える。

 

シオンはロボットだけど、露骨にロボットとの映像は実は無いので、観終わった時には人間が演じた演劇を見たような感覚が残り、何でも自由に描けてしまうアニメの自由度を敢えて抑えて、シオンを含めた若者数名にフォーカスしているようで、うまいと思う。

 

 

3.ロボット(AI)は意思を持つのか?

最後に一番重要な点だが「シオン(AI)は意思を持っているといえるのか」「製品ではなく友人なのか」などの良くあるテーマには映画としての結論が無いのが良い

 

観客は登場人物に立ち合うだけで、そんなテーマは考えずに単に楽しんでもいいし、解釈は観客に任されていているのが、作品として潔いと思う。

 

良くある作品での「ロボットも感情(生命)がある」とか「主人公を助けるために想定外の動き(奇跡)を起こした」などの感情移入用のアニミズムなファンタジーもいいけれど、それでは逆に「いや、ロボットやAIは人間が製造した道具だろう」とか「仮に新生命ならば将来反乱もあるうるよね」とも思ってしまう。

 

しかしシオンは献身的だけど、結局は「命令」通りに機能しただけとも思えるし(実現のためのAIによる自律的な探索・推論・試行錯誤も含めて)、山場で信じられない特殊能力を発揮した訳でもないのが、ツールとしてのロボット(AI)の描き方としてリアルだと思う。

 

観客が感動する対象は健気なシオン(AI)なのか、それとも昔のトウマの「命令」に込められたサトミへの想いなのか。解釈は観客に任されているのが、逆に想像が広がって良い作品と思う。

 

なお監督は幼少期からアシモフのロボットシリーズに詳しく、登場人物のネーミングにも反映しているそうですが、小説「私はロボット」は古典ながら推理小説として面白いです。

www.tsogen.co.jp

 

吉浦監督と大河内脚本へのインタビューでは、最初は歌の要素は無かったというのは驚きですが、ミュージカル主導の作品ではないからこそ、本来のロボット(AI)の描き方の筋が通ったのかなーとも思います。

v-storage.bnarts.jp

 

以上です。