らびっとブログ

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映画「アイの歌声を聴かせて」実は名作説は本当だった

10月29日公開で既に打ち切り懸念の「アイうた」だが、ツイッターで実は名作説が聞こえて試しに観たら、普通にとても良くできた映画だった。騙されたと思って無情報のまま観るのが吉。アニメというより映画ファンに。(最終更新 2021/11/14)

 

ポスターなどの画像は、悪いけどキャラデザ、美術、作画どれもキャッチーでないし、新しさが感じられない、つまり地味すぎ。歌の土屋太鳳のファンだけが行く作品かな、とか思う(失礼

www.youtube.com

 

ところがSNSで一部ファンから熱狂的な評判が聞こえてくる。ほんとか?

SNSで広がる『アイの歌声を聴かせて』の感動!ミュージカルアニメ映画史上最高の名作を絶対に今週末に観てほしい理由 | cinemas PLUS

 

公開2週間後の11月13日、早くも渋谷で上映館が消え、109シネマズ二子玉川でも早朝8:30のみで、館内にはポスターなど皆無の扱いで、10シアター中で一番座席の少ない部屋なのに空席半分の中で観ながら思った。

 

クチコミ人気爆発作品は事前認知度は低くても、「カメラを止めるな!」は一見してうまいカメラワーク、「この世界の片隅に」は原作通りのキャラと映像美、そして「若おかみは小学生!」は全編驚きの作画・美術・音響レベルと、冒頭から誘因力があるのに「アイうた」は冒頭もやっぱりキャラデザも美術も作画も平凡な感じだ。

 

最初は「サマーウォーズ」チックに始まり、少しローカルな普通の街で各デバイスだけ最新AI搭載の描写は今風で良いなーとか、主人公サトミがAIシオンに会ってすぐ秘密を守らねばと思うあたり説明セリフが最少でうまいな、と思う程度だったが、典型的な勘違い嫉妬のヤナ女役で出てきたはずのアヤが教室の画面の左下隅で微妙なリアクションをするあたりから、あれ、実は群像劇で演技が細かいんじゃないの、と。

 

そして「ポンコツAIが引き起こす学園ドタバタコメディ」なのに早々に皆にバレて、残り時間は何するんだーとか思ってると、万能イケメン風なのに悩みもあるゴッちゃん、それを理解はできないままで友人達でもある、マニアなトウマや柔道一直線なサンダーとの会話がリアルでホントにありそうだ。

 

そう、2階に居るシオンをサトミの彼氏と誤魔化すトウマが画面隅ではたかれたり、サトミのためのトウマの歌に「歌詞も違うし」と突っ込んだり、アヤがシオンの身代わりに歌おうとしてすぐ諦めてゴッちゃんに突っ込まれたり、登場人物ごとの背景ある細かいセリフや演技が、画面の端を含めて全編続くのだ。実写なら俳優のアドリブもあるけど、アニメでこれって凄いんでは。

 

とまあ細かい発見は以下の長すぎるタグが面白いし、再発見が沢山あるくらい実は凝っている。

#細かすぎて伝わらないアイの歌声を聴かせてのここが好き選手権 - Twitter Search

 

アヤとゴッちゃんだけで1本作れるのでは、なんてツイートも見かけるようにサブキャラも実在感がある。

 

つまり「アイうた」には、宮崎アニメの超絶作画とか、「天気の子」の主観的リアル新宿美術とか、「竜とそばかすの姫」の魅力的な細田キャラとか、そんな花は一切ない。星間エレクトロニクスのツインタワーの外見は最後まで平面的だし、滅茶苦茶動き回るようなアクション作画シーンもない。

 

むしろ、星間に捕まって個別に説教を受けるシーンで、椅子だけ映ったらサンダーが窓に壁を押し付けられる(単細胞!)とか、ベッドでシオンが眼を開けるとか、無暗に枚数を使わずに効果を出しているのがうまい気がする。

 

観終わってから、この作品は地味なキャラデザや作画や美術で正解なのではと思えて来た。シオンの美少女やゴッちゃんのイケメン扱いも所詮はこの高校内の話だし、「桐島、部活やめるってよ」みたいに普通の高校生の登場人物数名に実在感があれば良くて、アニメで映画してて凄いんじゃないか...とか。

 

なおIT関係者としては、古典的な人間vsロボット対立ではなく、代わりに一般人がみな非常停止ツールを持ってるのは納得感あるし、ファイヤーウォールとかビル全体オフラインとか最低限のセリフでうまく済ませてたし、ラストの「空へ」は歌詞だけでなく、ネットへ脱出では別れにならないし人類の生死をAIが握ったホラーで終わらせない配慮もあると思う。まぁパスワードに誕生日(数字8桁だけ?)は、半沢直樹じゃあるまいし、今ではありえないが一瞬のセリフなのでご愛敬スルー。

 

まぁ巨大企業とのバトルはちょっとテンプレ感だけど、最後のカタルシスには仕方が無いし、単純な善悪では終わらないし。

 

そしてミュージカルだけど単なるファンタジーパートではなく、劇中で実際に歌ってるシーンだし、歌詞がいちいち話にシンクロして、エンドロールの後まで旋律が残るのが良い。

 

最後にネタバレは避けるが、AIものなので、やはりアシモフの古典的SF名作「私はロボット(われはロボット)」や、その影響を受けた手塚治虫の「火の鳥」シリーズ、そしてスピルバーグの映画「A.I.」などに流れる、ロボットは果たして自己学習(自己進化)ができるのか、できるならばそれはもはや生命(友達)と言えないのか、といった哲学的発想も共通するし、また作中ではそんな話に触れないのもいいと思う。今もいるのかもって夢があるし。

 

そして一般的日本人が最初に身近な学習型AI(育成ゲーム)としてすりこまれたのは、やはり「たまごっち」と再認識させられた。(オタク向けには赤井さんキャラのPCゲーム「プリンセスメーカー」が先でしたが。)

 

という訳で、地味要素満載ながら、実は映画好きにはお勧めしたいし、伏線回収の嵐なので映画館でじっくりが向くけど、果たして打ち切りか逆転ロングランか注目されますね。

 

PS. これ書いてる途中でTV CFを初めて見たけど、やはりとっても地味~(苦笑

 

(了)