らびっとブログ

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政治:「共和主義」=「天皇制廃止」とは限らない

「共和主義」は日本で余り聞かない言葉で、通常は「共和国」つまり「君主のいない国」を目指す思想ですが、単純に「天皇制廃止」を意味するとは限らない

 

 

はじめに

 

鳩山由紀夫(友紀夫)元首相が「共和党」を提唱して、「天皇制廃止の意味では無いか」と一部で騒がれている。本人は「コミュニタリアニズム」(共同体主義)の訳と言っているようですが、それはさておき良い機会なので「共和主義」の用語や概念を少し「政治学」に整理してみました。

 

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なお私はマイナーや過激も含めて色々な思想が存在する事が健全と思う立場(リベラルというより多元主義者)なので、(当面の実現可能性は別として)長期的視点で「東アジア共同体」構想を掲げ続ける事は良いと思うが、やはり共和党」は「はー、なにいってんの?」と思う。どうせなら「立憲民主党」などと揃えて「共和民主党」とか(^^;)。

 

しかし「共和主義」は日本では幕末以来、意図的に避けられて来た感の強い用語・概念なので、これを良い機会としてまとめてみました。

 

基本用語の整理

 

カタカナは便宜上英語です。 

  • 主権者:国家の支配者(国家の重要決定を最終的に行う者)
  • 君主:国家の支配者が一人の場合の支配者。多くは世襲だが選挙君主制も。
  • 君主国:君主に支配される国。主権者は原則君主。
  • 共和国(リパブリック):語源は古代ローマで意味は「公共の国家」。君主制国家(君主の私物の国家)に対する用語。 近世にイギリス清教徒革命、アメリカ合衆国独立、フランス革命などで再評価。
  • 共和主義者(リパブリカン):通常は古代ローマキケロや、アメリカ合衆国独立時のジェファーソンなど。人民主義より代議制や勢力均衡を重視
  • 民主主義(デモクラシー):語源は古代ギリシアで意味は民衆(人民)支配。近世の啓蒙思想や市民革命で再評価。
  • 王:君主号の一般名詞(中華圏も日本も元々は王)
  • 皇帝:王の呼称の一種(中華圏では上位の君主、西洋では古代ローマ由来の君主)
  • 天皇:皇帝の呼称の一つ(中華圏、日本)。明治憲法下では「君主」。日本国憲法では「象徴」(法律上は君主は存在しない)。

 

古代ローマ

 最初は王政で、王も議論して選んだりもしたが、王追放後は「共和国」(リパブリック)を名乗った。主権者は「ローマ市民」で、中国や日本での「皇帝」との訳は批判も多い(実際は、「皇帝」は任期制の執政官や、市民の第一人者を意味する元首、軍司令官を意味するエンペラトールなどの兼任。俗称の「帝政ローマ」時代も名称は「共和国」のまま。)。なお神聖ローマ帝国ドイツ帝国ロシア帝国、ナポレオンのフランス帝国、更にはムッソリーニヒトラーアメリカ合衆国は、直接間接にローマ帝国との由来を自称(ファスケスの図案、鷹の紋章など)。後に混合政体君主制や議会制などの特徴を併せ持つ)として評価された。

 

アメリカ合衆国

 独立戦争時にジョン・ロックの思想を強く受け、イギリスからの独立後も新しい支配者に支配される事を強く警戒して、古代ローマの制度を模して独自の統治制度を開始した。ルソーの人民主義の影響が強いフランス共和政や後の社会主義勢力に対して、自由主義的(= 権力抑制的)な勢力均衡や、混合政体が特徴。後に民主党が「リベラル」として自由主義ながら社会民主主義的・人民主義的な傾向を強めると、建国時の伝統的な制度を重視する立場(ある意味では保守主義古典的自由主義地方主義、連邦懐疑主義)になっていった。

 まぁ個人的には「合州国」または「アメリカ連邦」が正確な訳語かと(^^;)

フランス 共和制

 フランス革命で国王処刑したため「共和主義=君主制廃止」のイメージが強い。ただしナポレオンが即位した「皇帝」は、少なくとも形式的には「フランス国民の皇帝」で、古代ローマを模しており、中華圏のような「皇帝」(王の一種)ではない。また近代国家での国家(国庫)と指導者の財産分離もナポレオンからで、当時の君主国では国家と君主の財産は区別が無かった(国家自体が君主の私物)。名実ともに「共和国」。

 

イギリス立憲君主制

 イギリスでは「君臨すれども統治せず」と「本来は王が君主(国家は王の私物)だが、憲法の制約(立憲主義)で、実質的には国民主権(民主主義)」というハイブリッドな制度ができた。今でも大英博物館は「王立」、イギリス軍は「国王(女王)陛下の軍」、国民は「臣民」で、首相指名などは慣習優先だが王の裁量がある。伝統と近代化の共存、一種の混合政体、人民主義的な清教徒革命やフランス革命への反省や警戒(イギリス経験主義)があると思う。ただ他のヨーロッパ君主国と同様に政治家や国民に一定の共和主義者はおり、王制廃止は主流ではないがタブーでもない。(サウジやタイでは今もタブー。日本は半分タブー?) 

結論

 以上のように、日本で「共和主義」が「天皇制廃止」を意味するかどうかは、以下の観点にもよる。

  1. 現在の天皇は「君主」かどうか。まず日本国憲法や法律には「君主」は存在しない(規定がない)。このため内閣法制局見解も学説(通説)も「天皇が君主かどうかは、君主の定義次第だが、どちらでも法的には何も影響しないため、法的にはどうでもいい」。用語・概念的には、本来「君主」とは主権を持つ存在で、イギリスは制限君主だが、「象徴」は一切の政治的権力を持たないから、少なくとも本来の意味では「君主」とは言えず、単に歴史的・慣習的に「君主」扱いをしているだけとも言える(1974年以降のスウェーデンも同様)。そもそも「象徴」とは例えば国旗や国章で、「象徴=君主」との一般解釈には無理がある。このため結論は歴史解釈によって変わる。一部保守派は「天皇は本来は君主だが、押し付け憲法のせいで今は象徴とされているだけ」と主張するが、別の保守派から「長い日本の歴史では明治の西洋君主的な天皇が例外で、本来は祭祀など伝統的権威では」との見解もあり、いわゆる進歩派は「今の憲法では君主はいない」と主張している。天皇が「君主」でない立場ならば、既に実質的には「共和国」で「共和主義」も問題ない。(誤解を招くかは別ですが)
  2. 「共和主義」の意味する内容。記述のように、当初の意味「君主を無くす主義」ならば、「現在も天皇は君主」と考える人には、確かに「天皇制廃止」の意味になる。しかし第二次世界大戦後の君主国激減・共和国一般化もあり、「共和主義」は特に(イギリス的な議院内閣制や、社会主義を含めたルソー的な人民主義に対して)「アメリカ合衆国などの、代議制や権力均衡を重視した、古典的自由主義的な政治体制」というニュアンスで多く使われているのが実情と思える。この意味では「現在の天皇は君主」と考える立場でも「共和主義」は両立しうる。なお日本は議院内閣制(議会が国権の最高機関)だが、仮に中曽根元首相の持論だった「首相公選制」を採用すれば、実質的には大統領制と同じで、更に「共和主義」と両立しうる(保守派は天皇の存在と両立しないとして首相公選制に反対しているが)。同様に、誤解を招くかは別の話です。

 

(追記)

  • 共和党」や「共和主義」の意味、そして前提として「現在の天皇は君主か」(更には、国民は現在も「臣民」か、国家国民は本来は天皇の私有か、そもそも「君主」とはなんぞや、単に敬愛の対象が君主なら将来は人気者でもいいのか)を整理しないと、少なくとも政治学的な話はできないなぁと思うのでした。
  • なお立憲君主制における君主制支持者には、伝統や敬愛などの心情面、国民統合や二重外交などの機能面の他、混合政体論的なバックアップ機能(政府や議会が対立等で機能不全の場合の最後の調整役)もあります。ただし日本やスウェーデンのように一切の政治的権力を持たない場合(「象徴君主制」とも)その調整も許されるかは議論があるようです。
  • 個人的には日本共産党は「スターリン主義政党」との認識ですが、「象徴天皇制は、君主制から共和制への移行途中の形態」との認識は歴史的実態に即している気がします。揺り戻しがあるかは別にして。
  • 日本における「共和主義」の状況は書籍天皇制批判の常識』(小谷野敦、2010年、洋泉社)が参考になります。本人は左翼では無いが天皇制は差別なので反対との立場ですが、八つ当たり気味に好き勝手書いてます。
  • 「北海道共和国」は後世の俗称。
  • 米軍占領下に沖縄で独立を目指した「共和党」があった。
  • モロ趣味の話題なのでつい長文となり失礼。読んでくれてありがとう!(^^)/

 

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