らびっとブログ

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追悼:吾妻ひでおは偉いのか?

漫画家の吾妻ひでおが亡くなった。驚いた。

ロリ/美少女/オタク/SFチック/萌え絵のはしり、商業誌ベテランなのにコミケ同人誌で活躍、多彩なジャンル変遷でも共通する絶妙な丸い線と不思議な浮遊感。

でも故人を讃えるのは礼儀かもですが、凄い、さすが、偉い、などの評を拝見するとちょっと違和感がある。彼は将来古典となる教科書的作品とか一般向けヒット作を飛ばしたのではなく、既成商業誌で育ちながらもパターンや定石から自由な表現者だったと思うから。

多くの人が『不条理日記』や『失踪日記』を代表作というのは受賞や集大成として当然と思うが、少し前から振り返ってみたい。

ふたりと5人』や『やけくそ天使』は不思議な作品で、途中で面白い発想が出ても最後は「あそこ~」とかハチャメチャとなるナンセンス漫画で、子供心にも「うーんこいつは本当に行き当たりばったりで描いてるな」と思っていたが、手塚治虫を受け継ぐ丸く色気があって、でも乱造しても妙に流れがある安定した線が好きだった。

また触れる人は少ないが『オリンポスのポロン』と『翔べ翔べドンキー』は編集者の意向なのか、ちゃんと当時の少女漫画してて子供向けで可愛く楽しく、でも本人の要素も見えて実はお勧めです。

そして1980年代の衝撃は、やはり幻の同人誌『シベール』や『陽射し』などの『純文学シリーズ』。当時は「ロリコン」という言葉も知られておらず、新聞雑誌でも「心理学用語で、ナボコフの『ロリータ』から」とか延々説明してから本題に入るのが常だった。ただ当時は、小説同人誌系は蛭児神建、女子高生エロ劇画は中島史雄、幼女エロ劇画は内山亜紀などが有名で、吾妻ひでおは漫画アニメ系ロリを代表していたと思う。

従来のオタクは、カルピス劇場とか『ザンボット3』とか『すすめ!!パイレーツ』などの作品キャラクターを探して「これがいい」「いやあっちだ」と騒いでいたけれど、純粋にオタク向けのキャラが続々登場してまずは同人誌、徐々に商業誌に波及していったので、やはりここでパラダイムシフト(業界関係者にはゲームチェンジャー)があったと思う。

ただ、当時オタクが10名いても熱心な吾妻ひでおファンは1~2名だったと思う。ストーリーや固定キャラで魅せる作風ではなく、あのわけのわからないセリフや間が気に入るかどうかなので、それでいいと思う。本質的に趣味的な作風。男性から見た偏執的な少女観も多いので、皆が好きではおかしい。

例えば、自虐ギャグで妙に楽しそうとか。端々のSFチックな小ネタとか。例えば『スクラップ学園』1話で初登場のミャアちゃんが登校をせかされて「おせんべ出そ」、先生も「おせんべしまって」と必要に思えないセリフも、ミャアちゃんが安易にステレオタイプなキャラ付けすんなと自己主張してるような気もしてくる。

個人的には1980年代の元気なタッチが最高です。

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双璧で正反対のような「ななこ」と「ミャアちゃん」も、従順だけど実は強い、奔放だけど実は優しい、どちらも超男性視点妄想ながら、些細な言動で実在してそう。ネタはインナースペースでも描写は人間観察でベースはコメディの安定感

以後は広告塔にされて粗製乱造的なロリ物ムックなどに描かされたり、次第に線や表情が硬くなって残念に思えてました。

でも動きを表す線やトーンは最低限とか、四角いコマ割り、全身アングル、内輪ネタ、『失踪日記』のパノラマとか、古典的な漫画を継承した貴重な存在だったと思うのでした。

ご冥福をお祈りします。

 

(追伸)私は「作者には敬称なしが敬意」派です。

(追伸2)『非実在少女しずむちゃん』(鈴木フルーツ)もおススメ。