らびっとブログ

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政府IT化は必要だがIT産業推進は邪道

菅内閣成立前に書いた前回の「デジタル庁は天下の愚策」の続編です。

 

前回の要点は

  • 行政IT化が進まない原因は各省庁の「文化」
  • デジタル庁では原因解消せず屋上屋、マイナンバー推進に矮小化
  • e-Japan戦略など電子政府/IT産業推進は長年大失敗

 

今回の要点は以下目次の3点

 

マイナンバーが普及しない原因

基本は「課題の解決には原因特定と、その原因への対応が必要」との当たり前な話だが、政治の世界では過去の「政治腐敗の解決には小選挙区制導入が必要だ」のように意図的に誘導/変質されるので要注意だ。

 

まずマイナンバーが普及しない原因は利便性が低いからで、ITシステムの出来ではない(細部ではITシステムのデザインも多々あると思うが)。

 

例えば銀行口座の新規開設には既にマイナンバーが必要だが、マイナンバーには口座は紐づけられていないから、コロナ対策の緊急給付10万円の振込先口座は毎回確認しないと行政にも判らない。

 

しかしこの原因は漏洩防止のため個人情報紐づけ禁止で、ITシステムではない。仮に今後法改正なら制度/セキュリティの再検討が必要だ。つまり業務要件/政治の世界で、デジタル庁に技術者を集めても意味が無い。

 

マイナンバーは運転免許/健康保険/年金/銀行口座/クレジットカードの紐づけ論もあり、その場合は所得/納税/病歴/購入歴の漏洩リスクもある。

 

個人的にはエストニアのように全国民全所得を全国民にネット公開するラジカル案に賛成だが、大半の日本人には懸念/抵抗もあり、どう政治変革できるかの話で、やはりITシステム構築の話ではない(制度決定後、どう設計/運用するかの話はあるが)。

 

菅内閣成立後の報道でも、デジタル庁はマイナンバー推進に矮小化され、時限官庁とのこと。つまり行政デジタル化全般は既に無い。

 

昔から「ふるさと納税」「携帯料金引き下げ」など官案件は個別すぎで、庶民に目先のアピールするが、税制/民業の全体の方向性が不明確で、それを指摘する官僚は飛ばされて沈黙し、長期間方針転換されない。デジタル庁も早速同じパターン懸念だ。

 

IT産業推進が成功しない理由

ネットを見ても「IT推進、デジタル化、DX」の話題で「利用」の混同が多いと思う。

 

問題は既存IT技術の利活用が日本の行政/社会で遅れていること。紙/FAX/郵送/印鑑/窓口/平日日中/履歴不明確などで、行政全体の「文化」変革が必要だが、最新技術の必要性は無い。もちろんITにはIT格差/セキュリティなど課題もあるし、大企業も災害時の最後の運用手順は手動だ。適材適所で使い分け、利用者側からは選択の自由が望ましい。

 

しかし「日の丸GAFA」などのIT産業推進は全く別物だ。

GAFA - Google, Amazon, Facebook, Apple - 主に日本での用語

FAANGFacebook, Amazon, Apple, Netflix, Alphabet (Google) - 主に米国での用語 

 

前回書いたが経産省のIT推進は既存の官庁と関係の深い企業/組織へのばらまきで終わったプロジェクトばかりだ。

 

日本の国家主導の成功分野は重工業/造船など「欧米に追いつけ追い越せ」モデルで、成功した自動車/家電/漫画/アニメ/ゲームなどは国の関与は少ない。前者は更に中韓に追われて停滞し、後者の激しい市場競争/早い決断をした民間分野で成功している。

 

更にGAFAアイディア先行/リスク負担/先行投資で勝者総取りの世界。政官は先行事例分析/調整/安全重視/予算確保の長期計画の世界。政官がGAFAと同じ事はできないし、国民の税金でギャンブルすべきでもない。(中国は政治は共産党独裁だが、経済はベンチャー気質が高く、官僚的な日本企業と対象的。)

 

またGAFAも中国も、優秀なら年収億単位でスカウト、状況次第で即解雇だが、この労使慣行も日本に導入するのか/できるのか。しなければ集団竹槍戦法で討死必至、すれば社会が自由放任/新自由主義市場経済に変質するが、移民も厳格制限の国に開国の覚悟はあるのか。

 

「国が日本のIT産業を推進すべき」論は、これらの前提を押さえていない。税金をばらまけばカンフル剤で企業/雇用は一時的に元気になるが、企業/製品/産業自体は強くならず、却って依存度/官僚制を高めて沈没の例が多い。

 

あるべき電子政府とIT活用

政府が行うべきは以下と思う。上述のようにIT産業ばらまきではない。

 

つまり「活用して効果のあるものは利点/難点を理解して活用する」「活用への障壁は利点/難点を議論し見直す」が基本。

 

行政自体のIT活用は、行政内の書類電子化/手順のワークフロー化/定常作業の自動化/会議や勤務のリモート化/調達のB2B化/研修のe-learning化/単純QAのAI化、などもあると思う。民間では既存技術で実施中。目的は高度化/効率化/利便性。

 

しかし民間のIT活用障壁の見直しは、行政が推進しないと民間は困る。

 

最近「契約は電子化でも成立する」と発表されたが、八百屋での大根の売買契約など、最初から契約は口頭でも成立する。しかし口頭では万一の裁判で「言った言わない」の証明困難のため書面の確実性が高い現実ある。つまり電子署名の基準が問題で、単に「契約は電子化でもOK」宣言では無意味だ。この推進は1企業/業界ではできない。

 

またEUは個人情報保護でGDPRを制定したが日本は受け身対応で、国際的主導は苦手だ。

 

更に日本に何故GAFAが生まれないのか。日本でもオープンソースなど世界で活躍の技術者は多いが、ベンチャーの起業/発展が困難な土壌がある。会社自体は簡単に設立できるが、若い企業は融資/雇用/取引/税制自体が不利。GAFAは判断次第で無名の日本企業ともリスク覚悟で取引するのと対象的。日本のサラリーマンは前例/確実/安定に弱い。個々の社員より、日本社会全体の官僚化/硬直化。

 

過去も政治家/財界がベンチャー推進を掲げたが、ほとんど変わっていない。

 

こんな話がある。「ソニーやホンダは初期のベンチャー精神を取り戻せ」と言う人は多い。でも既に大企業がベンチャーとは矛盾だ。そう言う人は本当のベンチャーは創業/支援しない。これは安易なナショナリズムを背景にした日の丸GAFA構想も同じで、「政府公認の安心ベンチャー」は自己矛盾だ。それは実現しないし、実現しても失敗確定だ。

 

(まとめ)

経済の主体は民間セクターで、政府は政府自身のIT活用と、民間のIT活用障壁の除去を進めるべきで、政府がIT産業(企業)を推進/支援するのは「ばら撒き/えこひいき」で間違いだ。ITのイメージで、混同したり騙されてはいけない。