らびっとブログ

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(続)広島アニメフェスの最後 (追記 2022/5)

広島国際アニメーション・フェスティバルは、今年のオンライン開催で最後(打ち切り)のようです。 前回ブログ(広島アニメフェスの最後)に続いて各記事やネットの反応を見返してみました(最終更新 2022/5/27)。

  

広島アニメフェス2020の唐突な終了

 2020年は新型コロナ対応で大半のプログラムは中止され、コンペティションのみオンライン開催となった。残念ながら状況から見てやむを得ないと思う。

 

前回2018年の最終日には「次回大会でまたお会いしましょう!」とツイートされた。(アカウント名はその後2020に改名されたが。)

 

しかし今回2020年は以下の受賞作品発表が最後のツイートで、終了宣言も次回大会の話も無い(9月11日現在でも)。

 

広島市の方針で、次回から音楽も含めた「総合文化芸術イベント(総合フェス)に一新」され、更に体制も従来のASIFA共催から地元団体中心になる。

 

しかし体制変更の報道は8月15日、つまり大会(8月20日~24日)開始の5日前とギリギリで、推測ながら運営側は次回への言及ができなかったのだろう。 まるで突然死だ。

 

オンライン開催への反応

大会は限定オンライン開催となったが、一部ファンによるオンライン活動も行われた。

 

ツイッター上では #エア広島アニメフェス 。もちろん妄想上の企画で色々な参加者の色々な年の話題もまざっているが、会場のアステールプラザに行ったかのような雰囲気と各参加者の視点や愛着が感じられる。以下はそのまとめ。

togetter.com

  

また大会前後の一部関係者による広島を語るZoomオンライン会議。以下は月刊近メ像インターネットの記事です。

 

「終了」への反響

「広島アニメーションフェスティバル」などでネット検索すると「終了」には否定的な反応が大半だ。(当然ながら従来参加者が多い影響はあると思いますが、総合フェス化を歓迎・期待する意見は発見できなかった。)

 

 

 

 

 

 

 

 

月刊近メ像インターネット 「広島国際アニメフェス 終る」 

 

(2020/9/25 追加)

 

(2020/12/31 追加)

tsugata.hatenablog.com

 

 

打ち切りの原因

関連資料(後述の①)を読み直して、非関係者ながら無責任に推測してみたい。

 

8月15日の記事では木下小夜子フェスティバルディレクター(FD)の「根耳に水」との表現が載っている。

 

しかし市の担当課長からの「やめるわけではなく、発展的見直し」で、「アニメ芸術の振興と地域活性化の両立」のため木下FDに話はしたが「共催という形以外は受け入れられない」との回答だった、との話も載っている。

 

もともと「市民から見て敷居が高い」との批判は当初からあり、市からの打診も(形式的かは別にして)あったので、「不満はあっても、従来通りを主張していれば今回も跳ね返せるだろう」と思っていたところ、突然の共催切り決定で「根耳に水」となってしまったのかも知れない(部外者の結果論な推測で大変失礼ながら。)

  

ところで私の今の仕事はIT系アウトソーシング(運用委託)で、長期契約は楽に見えるが実は築城3年落城3日、打ち切りリスク回避のため(現場だけでなく)顧客上層部の意向を確認/分析/検討/対応して合意文書を積み重ねる地道な努力も欠かせない。

 

特に相手からの批判や要望が減るのは、順調な場合もあるが「言っても無駄だ」と諦められた場合は怖いパターン。水面下で進めて次契約で突然切るのは良くある。

 

もちろん木下FDは市長にご挨拶を希望したり上部とのリレーションシップも重視している。ただ木下FDはASIFA-JAPAN会長兼ASIFA会長なので、仮に市が不満を持っても相談する「上」は居ない形なのも「継続または共催切り」の両極端な二者択一になったのかも知れない。

  

なお大会も「子供のためのアニメーション」など一般市民にも敷居が低いプログラムも毎回組んでいるが、素人の一般市民がプログラム一覧を見て「国際フェス、一般市民向け」の色分けがわかりやすいとは思えない。

 

大会ゆかりの作品でも「ピカドン」、「風 1分40秒」、「おんぼろフィルム」などアニメーションは言語に頼らなくても通じるのが利点だが、とはいえ日本語が楽な観客も多いので「日本部門」を設ける方法もあったかもしれない。 

 

もちろん正論では作品を「アート/一般」や「世界/日本」に分けるのはおかしいし、市民も気軽に色々な表現や作品に触れて欲しいのが理想だが、結果論ながら落としどころは探れなかったのかとも思う。(落としどころがあっても今回の動きはあったかも知れないが、「敷居」の理屈は弱められたかも。)

 

今後の体制(HACとHIFF)

今後の体制は来年決める予定とのこと。

 

アニドウなみきたかし氏は「木下FDの続投を」とツイートした(広島アニメフェスの最後を参照)が、従来からの協力者としては自然と思うが一般観客としては同等の質/量/レベルが維持できるかが重要と思う。

 

体制だけならば ASIFA-JAPAN が共催から協力などに一歩引いて、計画主体は地元団体に任せて、各国アニメーション作家との調整などを ASIFA-JAPAN が協力してもいいような気もする。

 

その地元団体には、従来より大会関連イベントも運営してきたNPO法人広島アニメーションシティ(HAC)などが想定されているらしい。

 

HACは2012年に広島市から認可を受けたNPOで、代表者・役員の名前も載っている。

hac.or.jp

 

同じHACでも、1995年に全国アニメーション総会静岡大会を主催した浜松アニメーションサークル(HAC)とは違うようだ (^^;

 

Webサイトや公式ツイッターを見ると「広島ゆかりのアニメーション」上映会や「広島アニメーションだより」発行など、幅広く地道に活動しているようだ。 

twitter.com

  

なお以下ツイートはHAC理事の松浦妙子さんかと思われる。

 

HACへの期待のツイートも。

 

市としては、一定のノウハウを蓄積した地元団体をメインの計画主体に格上げして、頑固な ASIFA-JAPAN は共催打ち切り、せいぜい業者委託(下請け)にして主導権を奪還したいのかも知れない。

 

オーナーの提携相手切りと言えばインテルAMDダイムラー・ベンツとヤナセナビスコヤマザキなども連想するが、期間をかけて相手のノウハウを吸収してから切るのは共通と思う。

 

更に推測では、広島の松井市長は2019年に3選を果たし任期は2023年までなので、3期目を確実にしてから早速懸案の刷新に着手したのかも。

www.city.hiroshima.lg.jp

 

また2014年より広島国際映画祭(HIFF)が毎年開催されている。この実績とノウハウを元に「そもそもアニメーションなんて映画の一部だから簡単」と思ったのかも知れない。

hiff.jp

 

広島国際映画祭実行委員会のメンバーには経済・観光関連団体が並んでいる。総合フェスもこれをモデルとするのではないか。

広島県広島市広島商工会議所広島経済同友会広島県観光連盟、広島観光コンベンションビューロー広島市文化協会、広島中央部商店街進行組合

 

いずれにしても、2019年9月の市議会での「見直すべき」との質問、2020年1月の総合芸術祭への一新の発表、同8月の体制変更は、この1年間の急展開にも見えるが何年も水面下で進められて来たのかも知れない。

 

今後の内容(広島市の基本仕様書)

もともと「隔年で、コンペティションは短編のみ」との課題はあった。今後はどんな内容になるのか。お役所的資料ながら、市の計画書といえる基本仕様書(後述の②)を見てみたい。

 

本市では、世界平和の実現とアニメーション芸術の普及・発展を目的として、広島国際アニメーションフェスティバルを昭和60年に初めて開催し、以後、隔年で30年以上にわたり実施してきた。本フェスティバルは、世界四大アニメーション映画祭の一つに数えられ、米国アカデミー賞公認の映画祭になるなど、世界的に高い評価を受けている。

本フェスティバルの成果を更に広げていくという視点に立って、イベントは、アニメーションのコンペティションの充実強化(短編部門のクオリティの維持と長編部門の導入など)を図るとともに、例えば、映画や漫画等も含めたメディア芸術全般を対象とすることを想定する。

 

上記を見ると、実績評価と拡充に読める。しかし、大半の人が反対しない表現を多用して、実は都合よく誘導できる事が行政文書のポイントだ。深読みすれば以下とも読める。

 

広島ならではのイベントとするため、各ジャンル・コンテンツのプログラム企画等については、地元の音楽・文化関係団体が主体となることを想定する。

 

上記が従来の「共催 ASIFA-JAPAN」を否定した箇所。なんと従来の大会は「広島ならでは」ではなかったのだろうか(愛と平和、平和のためのアニメーション、ヒロシマ賞など「広島ならでは」と長年信じていたが)。なお「想定」との文言は、単に保険で断定を避けただけかと(お役所文書)。

 

○ 検討委員会構成員(想定)

④メディア芸術関連団体
NPO法人広島アニメーションシティ、広島国際映画祭実行委員会

 

上記が映画/漫画関係の「地元団体」に想定されているようだ。

 

音楽」ジャンルでは、「クラシック音楽」を中核に、「吹奏楽」、「合唱」、「オペラ」及び「ポップス」を必須コンテンツとする。「メディア芸術」ジャンルでは、「アニメーション」を中核に、「映画」及び「漫画」を必須コンテンツとする。

 

総事業費は2億円程度を想定する(プレイベントを含む。)。

 

上記が決定的と思う。市から見ればジャンルも予算も拡大だが、広く薄くとなり従来内容は大幅縮小ではないか。

 

従来は1大会の事業費は約1.5億円という(①)。仮に単純計算で2億円を必須7コンテンツで割ると、「映画」全体で3000万円弱と従来の1/5。もちろん実際には広報宣伝や会場など共通費も多いが、プレイベント費用も含まれ、「映画」には長編も含み、音楽も楽器管理やプロ招待にも相応の費用はかかる。従来のプログラムはコンペティション以外はほぼ不可能ではないだろうか。

 

つまり新しい「総合フェス」のアニメーション部門は、国際アニメフェスとは言えない内容に変質するのは必然に思える。いっそ別都市に移動して、東京/千歳/広島などと良い意味で競えればいいのに、などと無責任に思う。

 

最後に

ファンの立場では、中身が伴えば名称や体制はどうでも良い。ただ問題は、その中身(質/量/レベル)が本当に維持できるかどうか。

 

もちろん地元団体に大会関係者も多く、熱心な活動もされると思う。ただ世界のアニメーション作家との協力関係は、お役所的権威だけでは限界もあると思うし、何より仮に「映画」全体の予算が1/5ならばコンペティションくらいしかできないのでは。

 

目先の「拡充と経済効果」を狙って、35年間で積み上げた世界的優位点(コンピテンシー)を喪失してしまうのではないか。フェス目的だけで広島を何度も訪れ、ついでにあちこち観光してきた1人として懸念は尽きない。

 

 

参考資料

①2020/8/16 朝日新聞デジタル小原篤のアニマゲ丼」。無料会員登録で読めます。(2020/8/15 朝日新聞記事の詳細版。恐らく一番詳しい記事。)

digital.asahi.com

 

広島市「総合フェス基本仕様書」 

総合フェス基本仕様書(PDF)

 

上記は以下リンク先の下部に掲示されている。

www.city.hiroshima.lg.jp

 

 

追記

(2020/9/21 追記)

広島アニメーションシティ(松浦さん)のツイート。以降のコメントも参照。

 

(2020/9/25 追記)

 

(2020/12/31 追記)  ASIFAによる広島国際アニメーションフェスティバル救援キャンペーン

 

(2021/1/10 追記) ASIFA-JAPAN の公式声明およびFAQ

asifa.jp

 

上記のFAQより抜粋

Q1-1: 広島大会は終わったのですか?
A1-1: ASIFAが公認し、ASIFA-JAPANが共催してきた広島大会は、不本意ながら、2020年8月に実施した第18回大会をもって終了することとなりました。

 

Q3-2: 新しい催しの「アニメーション部門」はこれまでの広島大会の後継ですか?
A3-2: これまでの広島大会とは全く異なる別の催しです。

 

Q4-1: ASIFA-JAPANは、ASIFAの精神を受け継ぐ新しい国際アニメーションフェスティバル - International Animation Festival in Japanを設立しますか?
A4-1: その方向で考えております。

 

(2022/5/27 追記)  ようやくひろしまアニメーションシーズン」(ひろしまアニシズ)の具体的な情報が出て来たけれど、個人的には従来の広島フェスのような熱心なウォッチは全く見かけず、国際イベントから地方文化祭になった事を改めて実感するし、寧ろ新規の新潟が話題のような...

 

 

アニメ作品のコンペはやるようだが、当初の「環太平洋・アジア」に「ワールド」部門も加えるなら、分ける意味はあるのだろうか。

 

とはいえ選考委員の座談会は、選考委員が毎回入替の従来のASIFA方式との比較の話などもあり面白い。

 

広島に代わり2023年予定の「新潟国際アニメーション映画祭」の方が世界イベントを目指すのかも。名称は過去の「広島国際アニメーションフェスティバル」に似ているがASIFAの名前は見当たらず長編特化らしい。

 

 

 

 (了)