ディズニーの戦争プロパガンダ・アニメーション作品について。
- 「総統の顔」("Der Fuehrer's Face" 1943 約8分)
- 空軍力の勝利("Victory Throuth Air Power" 1943 約66分)
- 理性と感情("Reason and Emotion" 約9分)
- おまけ
第2次世界大戦は総力戦で各国で国策映画が作られたが、アメリカ合衆国のディズニー作品は数も多く質も高く、ディズニーお得意のドナルドなどの元気キャラクターと、魔女シーンなどで積み上げたダークな迫力描写が注目ポイントだ。
これらの多くは普通には市販や上映されず、昔はマニアな上映会か海外DVDだけでしたが、今はネット上で簡単に観ることができる。
「総統の顔」("Der Fuehrer's Face" 1943 約8分)
多分一番有名。これは政府発注の国策映画ではなく、普通のディズニー作品のドナルドダックシリーズだが日本では市販されていない。アカデミー賞受賞。
原題の一部ドイツ語風は「ガールズ und パンツァー」と同じだ。中身はナチス・ドイツ世界のドナルドで、ステレオタイプなキャラ(日本人は細目、眼鏡、出っ歯)や、「ハイル・ヒトラー、ハイル・ヒロヒト、ハイル・ムッソリーニ」など枢軸国への揶揄だらけだが、前半はコメディ調、後半は更に漫画チックな悪夢に発展、そしてオチという当時のディズニー短編アニメーションに良くある基本展開だ。
ただ、やんちゃキャラのドナルドがやられっぱなしで全体に暗く、すっきりしない。ベルトコンベアーは動きの面白さもあるけどチャップリンの「モダン・タイムス」同様に当時の典型的な工場労働者イメージなのだろう。
(HDだけど字幕はフランス語)
空軍力の勝利("Victory Throuth Air Power" 1943 約66分)
これは「総統の顔」とは逆に、キャラクターものではなくリアル風な迫力満点だ。
原作本を元に実写・アニメ併用で、大規模な爆撃機による日本への戦略爆撃の必要性を訴えている。
本編は1時間6分だが、以下のアニメパート短縮版だけでも迫力だ。最初のアラスカからの夜間出撃シーンはフライシャーのスーパーマンシリーズかと思うリアルさ。コクピットから遠くに見えてくる白い(たぶん)富士山も美しい。
そして上空からの爆撃先は都市にしか見えないのに地上の破壊シーンは軍事関係しか描かれない。ラストはアジア諸国に触手を延ばし剣を突き刺している巨大な蛸(日本)をアメリカを象徴するハクトウワシが上空から繰り返し襲って退治すると、アジアに色が戻り、(本編では)星条旗とアメリカ国歌で終わる。
色々な点で都合よく、ラストは有無を言わさぬ迫力で愛国的に終わり、良くも悪くもこれぞ戦争プロパガンダな作品と思う。
(アニメ中心の短縮版 約4分)
(本編 約66分)
余談だが日本の住宅地を含む無差別(絨毯)爆撃は国際法違反ではないかとの議論は当初からアメリカにもあり、しかし日本は家内制手工業で民家も軍需工場との理屈が作られ、またこの作戦を推進したカーチス・ルメイは戦後に航空自衛隊育成に貢献として日本から勲章を授与された。
理性と感情("Reason and Emotion" 約9分)
これもなかなかだ。
頭の中に理性と感情が住んでいる。ところがヒトラー演説は恐怖・共感・誇り・憎悪を煽って、感情だけの野蛮なドイツ兵にしてしまう。
しかし理性と感情は役割を持って共存すべきで、その人物とはアメリカ爆撃機のパイロットで、その大編隊と星条旗で終わる。
ドイツ兵は野蛮でアメリカ兵は理想的人格なのだ。延々と合理的分析の話をしながら、最後はヘイト的な感動で締める。
これは実は戦争プロパガンダに限らず、名作の基本パターンなのが怖い(バトルもので合理風に進めて、最後はいきなり根性スーパーパワーで感動とか)。
おまけ
ネット検索でこんな論文を発見。以下が載っておりお勧めかと。
- ディズニーが国策映画を作るに至った背景
- ドナルドが多く、ミッキー等は少ない理由
- ミッキーは悪者ネズミから優等生へ
また以下も有名ですが次の機会に。
(ディズニー)
- 新しい精神 (1942) - 戦争のためのドナルドの納税促進
- 1943年の精神 (1943) - 上記の続編
- 死への教育 (1943) - ヒトラーユーゲントへの批判
(フライシャー)
(日本)
(了)