一般には馴染みの薄いメインフレームコンピューターについて。昨年書いた「メインフレームとは」は文字が多かったので表で要約してみました。
①超まとめ
- メインフレームは基幹業務向けの大型コンピューターのこと
- 日本で汎用機と呼ぶのは不正確!
- メーカー現存5社のうち、継続表明は2社のみ(IBM, NEC)
- 独自仕様で専門的で高価だが、大量データ処理や信頼性・安定性が特徴
- 実はオープン性のレベルは、時代やメーカーの差も大きい
②最新例
2022年発表のメインフレーム「IBM z16」です。画像はシングルフレーム構成で、右側の凹凸は単なるラック前面扉のデザインです。ストレージなどの周辺機器を備えて空調完備のマシンルームやデータセンターに設置されます。
③コンピューターの分類
コンピュータの分類と用語は時代や視点にもよりますが、一般的には以下と思います。
大分類 | 中分類 | 初期の例 |
---|---|---|
- |
1960 LARC 1961 IBM 7030 |
|
(ホスト) |
専用機 *1 |
1951 UNIVAC I 1952 IBM 701 |
汎用機 *2 | 1964 System/360 | |
分散系 | ミニコン(オフコン) | 1960 PDP-1 |
オープン系サーバー *3 | 1970 PDP-11 | |
PC |
1977 Apple II 1981 IBM PC |
それぞれ補足すると、
- スパコン:特に高速なもの。通常は科学技術計算用。
- メインフレーム:企業などの基幹業務用で、分散系と区別した用語。
- ホスト:本来は端末に対する用語で、メインフレームの俗称。
- 分散系:本来は中央(ホスト)に対する用語で、非メインフレームの総称。
*1 専用機:以下いずれかの用途(CPU命令セット)のメインフレーム
・科学技術計算用(浮動小数点演算、fp)
・商用計算用(10進数演算、Decimal)
*2 汎用機:上記「専用機」に対して、両用(両方のCPU命令セット)のメインフレーム。なお日本ではメインフレーム全体を「汎用機」と呼ぶ場合が多いのは恐らく過去の「IBM System/360対抗」意識からだが、UNIVAC Iなどの専用機が含まれず、大半の分散系も実際は「汎用」なので、適切な用語ではないと思う。
*3 オープン系サーバー:日本特有の用語で、メーカー独自仕様に対する、UNIX, Linux, Windows稼働サーバーだが、そもそもH/WとS/W(OS)を混同しているし、仮にH/Wならば x86, 各RISCなどの間に互換性がある訳ではなく各プロセッサーもオープンとは限らないし、また仮にOSならばWindowsはMicrosoft独自仕様だし逆にLinuxがネイティブ稼働するメインフレームもあり、雑すぎて適切な用語ではないと思う。
④時代ごとの分類
分類(用語)を時代に分けてみました。用語は区別する必要が発生した時に生まれ、普及した用語は過去にも遡って使用されます。記載は一般に広く普及した用語だけで、各社の大型・中型・小型や「スーパーミニ」などは省略しました。
時代 | 分類 | 備考 |
---|---|---|
1950~ 黎明期 |
コンピューター | 現メインフレーム *1 |
1960~ 3分類に |
スパコン | 別格扱い |
ホスト | 現メインフレーム | |
分散系 | ミニコン(オフコン) | |
現代 |
スパコン | 別格扱い |
メインフレーム | 2000年頃から徐々に普及した用語? | |
分散系 |
・サーバー(オープン系、独自仕様 *3) ・W/S、PC など |
1 当時の名称は単に「コンピューター」ですが、現在では遡って「メインフレーム」と書かれている(例 IBM Archive - Mainframe)。
*2 現存のオフコンは IBM PowerSystem の IBM i (旧 AS/400)など。
*3 現存の独自仕様サーバーは HPE NonStop(旧タンデムの無停止コンピュータ)など。
⑤現存メーカー
メインフレームのメーカー(メインフレーマー)は過去には世界に多数ありましたが、現存は6社で、うち今後の継続表明は2社のみ(IBM、NEC)です。
大分類 | 現製品(主なOS) | 今後 |
---|---|---|
IBM互換 | IBM Z (z/OS, z/VM, z/VSE, Linux) | 継続表明 *1 |
富士通 GS21 (OSIV) | 撤退予定 *2 | |
日立 AP10000 (VOS3) | H/W撤退済 *3 | |
非IBM互換 | NEC ACOS (ACOS) | 継続表明*4 |
Unisys ClearPath (OS2200, MCP) | 新製品なし? *5 | |
アトス BullSequana M series (GCOS) | 詳細不明 *6 |
*1 IBMの今後のメインフレームへの投資表明 (2023年)
*2 富士通は2030年のメインフレーム販売終了を表明済 (2022年)
*3 日立はメインフレームのハードウェア撤退を表明済 (2017年)
*4 NECのメインフレーム継続宣言 (2022年)
*5 BIPROGY ニュースレターにClearPath新製品発表が見当たらない...
*6 仏アトス社の製品ページ
なお過去のメーカーはGE、RCA、BUNCH (バローズ、ユニバック、NCR、CDC、ハネウェル)とその継承者(UNISYS、Bullなど)や、日本の国産6社3グループ(富士通・日立:IBM互換路線、NEC・東芝:非IBM提携路線、三菱・沖:独自路線)、そしてIBMスピンアウトのアムダール(IBMハードウェア互換)などが有名です。
非IBM系は情報が非常に少ないですが、NEC ACOSはGE GCOSの、Unisys ClearPathはUNIVACおよびバローズを継承する長い歴史を持っています。
⑥特徴の比較
乱暴に比較すると以下でしょうか。
(例 IBM z16 + z/OS) |
一般的なサーバー (例 x86) |
備考 | |
---|---|---|---|
用途 |
基幹業務用 |
汎用 | *1 |
CPU |
独自(z/Architecture) CP + IFL + zIIP + zAAP *2 |
*2 | |
入出力 | チャネルサブシステム | 基本はCPU | *3 |
ストレージ | 外部のみ | 基本は内蔵 + 外部 | *4 |
ミドルウェア |
Webサーバー(IHS) アプリサーバー(WAS) 階層型DBMS(IMS) |
色々 | *5 |
開発言語 | FORTRAN, COBOL, C, Java等 | 色々 | *5 |
信頼性・運用 |
アドレス空間独立 開発と運用の分離 細かい障害調査と修正 |
ユーザーが神 累積修正が基本 |
*6 |
例えると? | 鉄道? | 道路と自動車? | *7 |
*1 一般論では汎用製品で済む用途は汎用で良く、銀行の勘定系もネット銀行や地銀はオープン系が増加中だが、メガバンクの大規模処理は当面はメインフレーム。
(例)
・三菱UFJ銀行:今後の勘定系近代化にメインフレーム継続 (2022年)
・三井住友銀行:次世代の勘定系にACOS継続 (2020年)
*2 用途に応じて基本のCP、Linux特化のIFL、Java特化のzAAP、Db2特化のzIIPを組み合わせできる。なおCPUマイクロ更新で処理効率も更新される(マイクロプログラム方式。メーカーが適時更新し、起動(IML)時に反映)。
*3 チャネルサブシステムは入出力専用のプロセッサーで、大量I/O発生時にCPU負荷を避けて安定的なI/O処理を行う。なおz/OS等はテープも順次ファイルとしてそのまま読み書きできる。
*4 起動(IPL)時に起動ディスク(OS格納のSYSRES)を選択可能なため、IPL不可障害時の切り分けや、障害時の運用変更(開発機→本番機など)は容易。
*5 IBMは1980年代の標準化(SAA CPI)で FORTRAN, COBOL, C 、1990年代に更に Java をOSや主要ミドルウェアでサポート。なお「メインフレームはCOBOL」は日本の特殊事情で国産メインフレームの印象が強い。
*6 メインフレームの基本設計は組織内役割分担で、開発(プログラマー)と運用(起動停止やリソース割振りするオペレーター)は分離、プログラム間もアドレス空間を分離、障害発生時の取得資料(トレース, SLIP等)も多く、修正情報DB (SMP/E)で必要最小限の修正(PTF)適用が可能など、専門的で面倒だが厳格。なおUNIX, Linux, Windowsの基本思想は「ユーザーが神」で全てを簡単に操作できるが、万一特権を奪われるとセキュリティは終了が基本(ただし各種仮想化併用で差は縮小できる)。これらは神学論争になりがちですが、善悪というより文化相違と思う。
*7 都市計画に例えると、メインフレームは鉄道で、高価で専用技術が必要でメーカーも限られるが、大量の乗客を高速・安定的・エコに運送できる。サーバーは道路と自動車で、安価で誰でも運転でき柔軟で調達容易だが、要件や設計によっては渋滞や排ガスやサポート増大にも陥る。これも道具の特性相違なので善悪ではなく、選択と組み合わせの問題と思う。
⑦オープン性のレベル
メインフレームは各メーカーの独自仕様ですが、そのレベルは時代やメーカーよる差も大きくあります。
備考(日本) | ||
---|---|---|
1964~ |
System/360 ・H/W仕様の公開 *1 ・OSの無償公開 *2 |
1960 国産メーカーに特許公開 |
- |
業界標準言語の採用 |
|
1970~ |
知的所有権重視に転換 ・S/370 XA |
1981 IBM産業スパイ事件 |
1990~ |
オープン標準の取込 ・UNIX環境(USS) ・64bit CMOS CPU ・並列クラスタ(Sysplex) |
(国産各社は大幅な拡張は停止) |
*1 System/360シリーズはCPU命令セットとI/O命令(Chanel Control Word = CCW)を標準化してユーザー(プログラム)から見た互換性を保ち、更にマニュアルで公開した。このためユーザープログラムも普及し、周辺機器や本体の互換機も普及した。
*2 商用初のOSであるOS/360を無償公開(パブリックドメイン)し、ソースを公開した。このため技術力あるユーザーはOSをユーザー用に修正して使用できた。またユーザー開発のサブシステム(JESなど)をパッケージ化してOSに取り込んだ。
⑧リンク集
最近拝見したもの。わかりやすいですね。
- 富士通の撤退する「メインフレーム」ってそもそも何? (2022/2) ←昨年書いた切っ掛けとなったブログです
- z/OS技術者が学ぶべきオープンな技術~USSの活用~ (2023/4) ← z/OSにUNIX環境が標準な事は、世間で余り知られてないので貴重では
なお宣伝的な煽り記事は、表現を真に受けないリテラシーが必要かと思います。例えば以下タイトルは富士通の撤退発表から1年以上後に「激震」とは今更感があります(記事内容は良いのですが)。
- 富士通メインフレーム撤退で業界激震! (2023/4)
またメインフレームからの移行事例は実際には毎年沢山あるのに、タイトルでCOBOLやAWSを強調しすぎるのも移行業者の宣伝感を感じます。
- 次期全銀システムは富士通メインフレームとCOBOLから脱却へ (2023/2)
- PayPayカード、メインフレームの基幹システムをAWSに移行--業界で前例なき規模 (2023/4)
他方、IBMは従来から「IBMメインフレームはレガシーではない」、「世界ではWeb, ERPなどのニューワークロード用途が増加中」と主張していますが、更に最近の「AI推論、対量子暗号化」などの売りは果たして普及するのか。
- 国産メインフレームが撤退していく中で「IBM Z」が強気の理由 (2022/5) *後半は有償記事
- 日本IBM、ラックマウント型メインフレームなど発表 (2023/4)
以下は最近更新されていませんが、資料として纏まってます。
⑨最後に
- 表を使った要約ブログなのに、結局長くなり何週間もかかり敗北感(苦笑
- はてなブログは表をHTMLで書く必要がありますがタブなどは落とされて色々面倒でした(HTML可能なだけ良いですが
以上です。長文失礼しました。間違いなど指摘頂けると嬉しいです(ペコリ