らびっとブログ

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映画「すずめの戸締まり」は期待を裏切らない新海ワールドでした。

劇場アニメ映画「すずめの戸締まり」は新海誠監督の前2作「君の名は。」「天気の子」とはパターンは違えど同じ方向性で、コメディ・旅・災害・人間模様などを盛り込んだエンタメ作品で楽しめました【ネタバレ最低限】

 

 

できれば映画館で、入場特典は後で読みたい

前2作と同様に外界を遮断して一気見できる映画館が向く作品ですが、入場特典の「新海誠本」はネタバレ満載なので先に読むのは避けたいと思います。(表紙の裏に「ご鑑賞後にお読みください」とありますが、見たいページから見てしまうとこでした)

 

公開日翌日の11/12(土)の二子玉川109シネマズでは、全35スクリーン中の7スクリーンが同作で、ほぼ満員でした。

なお作品側の問題ではないが、この「スクリーン独占」状態は問題視もされている(日本全国のシネコン、『すずめの戸締まり』にほぼ戸締まりされる

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(入場特典の「新海誠本」中の企画原案の絵の一部。椅子のシンプルな造形がキュート。)

 

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(館内の壁ポスター。キャッチコピーの「行ってきます。」が鑑賞後は別の実感に。)

 

公開の数日前は、大して内容のない自分のブログで過去の新海作品感想のアクセスが少し上がったのも世間の期待を感じました。

 

まずはキャラクターが良かった

主人公の鈴芽(すずめ)はポスターでは前2作より大人びた絵柄に見えたが、喜怒哀楽豊かな表情とセリフは健在で安心。巻き込まれ役で最初は「ええっ」ばかりなのも笑える。声優の原菜乃華が声優初挑戦とは信じがたい。そして「スズメのミミズ退治」なネーミングも判りやすい。

 

次に相手役の草太(そうた)は、監督作品らしからぬ大人イケメンなビジュアルが不安だったが、作中の大半では椅子としてコミカルな演技を延々続けるというギャップが面白い。この椅子は目も動かないので、動きとセリフだけの、まさにアニメーション映像ならではの表現も実はすごい。

 

ペット的外見ながら悪魔的なダイジンは、きまぐれで自分勝手なのは日本古来の祟る神や猫の特性と同じで納得できて、また実は決して嘘はつかないのはキュウべえとも似ていて、実は身勝手な人間に対比させた神の化身のようで、また見返したくなる。

 

そして他のサブキャラが全て実在のように活きている作品世界。個人的にはメインキャラより良かったくらい。

 

話の展開は

最初のバトルシーンは相手のミミズはもっと見せなくていいのでは。予告編の見せ場用かも知れないが、鎮める相手が段々エスカレーションするという定番パターンが弱い気がする。

 

しかしその後の日本縦断の旅は予想外な展開、クスリと笑えるシーン、魅力的なサブキャラ陣と、展開が見事だ。説明が少なく観客の推測の余地があるし、決めセリフの変化も楽しい。

 

キャッチコピーの「行ってきます。」も、ポスターでは「どこでもドアで異世界に旅立つ話か」と思わせて、納得な展開を映像だけで語るのも映画的で良い。

 

監督作品の代名詞ともなった「リアル背景」も「天気の子」よりは光を抑えて、再びキャラと展開に集中させた気がするのも良かった。

 

また「扉」を探す中で、廃墟の観覧車の物理的な怖さはリアリティとオリジナリティを感じた。

 

ただ椅子が身体に「慣れてきた」セリフは、高速で走り出してからではご都合に見えるので、少し前にそれとなく触れても良かったのでは。

 

ところでオープンカーの自動収納ルーフを高速走行中に戻すのは風を巻き込んで大変危険なので真似しないようにしましょう(笑

 

君の名は。」「天気の子」と比べると

比べると「君の名は。」はキラキラ東京と「愛は災害を救う」で、その反省もあり「天気の子」は東京ダーク面と「災害より愛を選ぶ」になり、また「天気の子」の「男の子が宿命の女の子を救う」ジェンダーな関係性も「すずめ」では逆パターンになった。監督が自分の作品の反響をみては「それだけとは限らない」とバランスを取り続けているような。

 

でも常に災害が裏表だが、過去を抱えながらも信じた方向に進みたい、というのは一貫していて、一連の3作品は監督の作家性が現れていると思う。

 

これは宮崎駿監督が「男の子がお姫様を助ける、うんちもおしっこもしない女の子」と言われ続けた後に、「ナウシカ」や「魔女の宅急便」を作ったのと似てるようで、パターンは変えても根(世界観)は同じなのが作家性かなと思う。

 

これを「またこの世界観か」と見るか、「この作家世界が良い」と見るかは観客の自由だろう。

 

もともと新海作品は1作目の「ほしのこえ」からコア信者と「自己陶酔でキモイ」との嫌悪派に分かれやすいし、初期のマイナーな世界観が好きな人には、「君の名は。」以降の「メジャーへの転向は裏切り」と批判的な人もいる。ただ自主制作や実験作品と商業作品をいったりきたりのマルチで多芸なアーチストは昔から多いし、「浮気しないのが道だ」の美学には権威主義な弊害もあり、どちらが偉いという訳ではないと思う。

 

まとめると「すずめ」は前2作と同じ方向性ながらパターンを変えて、コメディ・旅・恋愛・スペクタクルの要素をうまく組み合わせたエンターテイメントになった成功例と思うのでした。また見返したい。

 

以上です。