らびっとブログ

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「クラウド蓮舫」どっちがおかしい?

2020/6/11の国会でマイナンバーカードのシステムトラブルに関しての蓮舫議員の「サーバーは増やすんじゃなくて、時代はもうクラウドなんですよ」との発言が話題のようだ。

(最終更新 2021/4/11 リンク追加)

  

しかしIT業界関係者としては、この表現は普通で違和感が無い。それでは「クラウドはサーバーの固まりだ」などの議員への批判は妥当なのか。軽く見ていきたい。

 

なお私は安倍首相の「GO TO」の「強盗」読み間違えも、言い間違いは誰にでもある、揚げ足取りより実質的な話をしたい、と思う立場です。

 

まず事実関係はこちらの記事を。

mainichi.jp

 

(2020/6/13 追記)質疑全体はこちら(長いです)

https://twitter.com/buu34/status/1271377610019233792?s=20

 

 

 

1.この質疑での「サーバー」とは?

 

まず話の流れは

  1. トラブル対応で(自営・自前の)サーバー増強を計画中
  2. (それに対して)「時代はもうクラウド

 

普通に聞けば「自前のサーバーの増強だけでなく、将来的にクラウド化も考えるべきではないか」と思える。議員が「クラウドならサーバーは(どこにも)存在しない」と言っている、と主張するのは強引すぎだろう。

 

実は国会質疑のような表現は、経営層やIT管理部門や営業では普通だ。ユーザー視点で「サーバーを無くしてクラウド移行」とか。言葉の理解は、使われている状況を見ないと意味が無い。

  

思うに、PCマニアやプログラマなどが「クラウドでもサーバーはある」と言っているのではないか。そりゃ内部的にはそうだが、議員が政府に対しての質疑発言なので「政府の自前のサーバーの話だけでなく、外部サービス調達は検討しないのか」と聞くのが普通かと思う。

 

(オマケ:「サーバー」の話。読み飛ばしてOKです。)

「サーバー」は本来はソフトウェア設計の用語(手法)の「クライアント・サーバー・モデル」から。複数プログラム(コンポーネント)の役割分担で、クライアント(要求側)からの要求で、サーバー(サービス提供側)が処理結果などを返す。古典的な「中央のホスト側が全てを管理し、ユーザーは端末で接続する」モデルと比べて緩く役割分担できていて、仕様をちゃんと作れば片方の拡張や交換も容易だ。1990年代に大手コンピューターメーカーは自社のコンピュータ(ハードウェア)も「サーバー」と呼ぶようになったが、これは単に「サーバー用途にどうぞ」というだけで、それを買って個人ゲーム機にするのも自由だ。つまりハードウェアの「サーバー」は派生的な意味しか持っていないのだが、普及してしまった。なお日本語で「サーバ」と最後の長音を付けないのはJIS用語集準拠の電電公社系の国産メーカーやその顧客に多く、「業界用語」と言っているが、絶滅危惧種だ。

 

2.「クラウド」は「サーバー」なのか?

 

次は「クラウドとは何か」の話。

 

確かに「クラウドはサーバーの固まり」ではある。Googleのデータセンターは自作サーバーだが発熱対策が大変だ(Powerプロセッサ化はどこまで進んだのだろう)。しかし「クラウド」は単に「サーバーをネット上に置いただけ」ではない。

 

  • サーバーを自前(自営)で持つ事は「オンプレミス」と言う。
  • 自分のサーバーを単にネットワーク接続の他社センターに置くのは「ホスティング」だ。クラウドとは呼べない。
  • 更にベンダー資産のサーバーを「サービス」として使用するのは「アウトソーシング」だ。地銀の勘定系システムの大半は既にこれ。これを無理に「地銀クラウド」と呼んだベンダーもいるが、普通はクラウドとは呼べない。課金は定額でも従量制でも個別見積でもいいが、「サービスとして提供」がポイント。
  • 本当の「クラウド」は性能向上(リソース割当変更)が自動化されている。つまり、ユーザーの増強依頼を、クラウド側のデータセンター内で、いちいち内部発注したり手作業で増強しているようでは「クラウド」と言えない。

 

(また細かい話なので読み飛ばし可)もちろん例外はあり、例えば物理サーバーをクラウド提供するベアメタルもあるし、また仮想化・自動化できていても一定量以上は手作業の増設作業が入る場合もある(ただし移行を含めて手順化・標準化されている)。それでも「ユーザーがサーバー10台分を求めた場合に、クラウド側データセンター内で10台を内部発注している」訳ではない。仮にそうなら、単にスケールメリットによる定額調達や技術者集約による統合効果程度で、これではアウトソーシングと同じだ。

 

つまり「クラウド」では各種の仮想化技術を組み合わせて、プロセッサパワーなどのリソースをプールしており、これをユーザーからのGUI画面などからの要求で、ほぼ自動的・短時間で提供している(プロビジョニングなど)。身近なクラウドである、iCloudとかGoogleドライブなどのクラウドストレージの容量追加と同じだ。

 

 

簡単に言うと、「単にネットワークの先にサーバーがある」だけではクラウドとは呼べず、「ユーザーから見てほぼ自動で性能増強容易なのがクラウド」だ。

 

 

ここで国会質疑の記事の表現を見返すと「サーバーは増やすんじゃなくて、時代はもうクラウドなんですよ」で、ユーザー視点での性能増強の調達方法の話だから、「個々のサーバー増設より、クラウド(のリソースプール)を使えばいいのではないか」と思えて、違和感はない。

 

逆に「クラウドはサーバーの固まり」というのは、クラウドの必須条件より、内部的・形式的(物理的)な話をしているだけに見えてしまう。

 

なお、もちろん「クラウド」の定義はベンダーや立場によって違う。ほぼ元祖の Salesfoce.com は「パブリッククラウド経由のPaaSが本来のクラウド」と強調するし、大手メーカーは「特性を満たせばユーザーが自社内に構築するプライベートクラウドもある」と言う。ひどい場合はネットワーク経由なら何でも「クラウド」と呼ぶ人もいる。

 

ただ繰り返しになるが、「クラウド」は「ユーザーから見てほぼ自動化」されていなければ、意味が無い。

 

3.クラウドで大丈夫か?

マイナンバーのような高いセキュリティが必要なシステムにクラウドが適さない、という批判もある。

 

しかし米国政府はマイクロソフト Azure を採用し(アマゾンが抗議中)、日本も官庁クラウドを推進中だ。三菱UFJ銀行AWS採用も話題となった。各クラウドベンダーも国内複数拠点(災害対応)や、金融なら金融庁や日銀の監査にも対応できる高い基準のセキュリティ対策も進められている。

 

もちろん米国軍のスーパーコンピュータや、銀行の勘定系システムの大半はクラウド化する事は無いと思うので、向き不向きはあるし、クラウドで苦労する点も山とあるが(ユーザーは自分で運転が基本、個別運用は限界、全滅リスク軽減には複数クラウドも必要)、「重要システムはクラウドは向かない」とはもはや言えない。時代錯誤すぎる

 

なお話題の議員も官庁クラウドや、その移行タイミングにも触れてるようだ。

 

 

 

最後に一言。ツイッターは便利だが、ステレオタイプな叩きが横行するのが難点だと思う。そして叩きゲーム趣味の人が多いようで、誰かが事実を指摘しても、事実には最初から関心がない(叩きゲーム続行、中身より量)ようだ。いちいち真に受けない、単純に数に影響されない、というのもネット時代(というか実はネット以前からの)のリテラシーかと思う。

 

(オマケ)「2位じゃダメなんですか?」の経緯を良く整理した記事

t.co

 

(オマケ2)より詳しくまともな説明

anopara.net

 

 

(了)