らびっとブログ

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検察法改正案の内容と問題点は

2020年5月8日に国会審議が開始された「検察法改正法案」が、当日夜からネットやマスコミで話題だが、その法律は実際にどう書かれているのか、何が問題視されているのか、そして何が「デマ」で「本当」なのか、なるべく簡単に事実に沿って冷静にまとめてみた。(詳しい方は最初から最後の参考をどうぞ。)

 

2020/5/12 ねとらぼ分析のリンクを追記  

 

 

1.問題の法案

 

法案は意外と簡単に誰でも読めるから、リンク先を見てみよう。

 

 国家公務員法等の一部を改正する法律案 新旧対照条文」(内閣官房ホームページ。PDF 289ページ。)

https://www.cas.go.jp/jp/houan/200313/siryou4.pdf

  • 最初の2ページは目次で、33の法律(〇印)をまとめて改正する「束ね法案」だ。束ね法案は、今回の定年延長など同じ趣旨の法律を一括で審議して可決できるので推進側(通常は政府与党)には便利だが、細部の審議時間が不足する、都合の良い修正が隠されやすい、一部の問題点では全体を否決しにくい(人質化)など「国会形骸化」との批判もある。
  • 3ページ目以降が新旧対照表で、下が現行、上が改正案で、傍線は変更箇所。変更の無い箇所は省略されているから、わかりやすい。
  • 問題の検察庁法」は93ページから(目次を含めたPDF上では95ページから)

 

2.問題の条項

問題の定年条項(第22条)は、現行の3行が、改正案はなんと4ページ弱もある。以下は数字は算用数字にして、ポイント以外は省略したが、ほぼ原文のまま。

(現行)

第22条 検事総長は、年齢が65年に達した時に退官、その他の検察官は年齢が63年に達した時に退官する。

 

(改正案)* ②~⑧は新設、一部のみ抜粋

第22条 検察官は、年齢が65年に達した時に退官する。

②、③ (新設、省略)

法務大臣は、次長検事及び検事長が年齢63年に達したときは、年齢が63年に達した日の翌日に検事に任命するものとする。

内閣は、前項の規定にかかわらず、年齢が63年に達した次長検事又は検事長について、当該次長検事又は検事長の職務の遂行上の特別の事情を勘案して、当該次長検事又は検事長を検事に任命することにより公務の運営に著しい支障が生ずると認められる事由と当して内閣が定める事由があると認めるときは、当該次長検事又は検事長が年齢63年に達した日の翌日から起算して1年を超えない範囲内で期限を定め、引き続き当該次長検事又は検事長に、当該次長検事又は検事長が年齢63年に達した日において占めていた官及び職を占めたまま勤務をさせることができる。
内閣は、前項の期限又はこの項の規定により延長した期限が到来する場合において、前項の事由が引き続きあると認めるときは、内閣の定めるところにより、これらの期限の翌日から起算して1年を超えない範囲内(その範囲内に定年に達する日がある次長検事又は検事長にあつては、延長した期限の翌日から当該定年に達する日までの範囲内)で期限を延長することができる。

 

改正案は長い!抜粋なのに長い!しかしこの中に問題視される内容が書かれてます。

  1. 検事総長 ←トップ(長くなるのでちょっと省略)
  2. 次長検事 ← 幹部(上記の新規条項⑤⑥の対象)
  3. 検事長 ← 幹部(同上)
  4. 検事及び副検事 ← ヒラ(失礼!)
  • 現行で、一般の公務員は原則60歳定年なのに、検察官は63歳(検事総長のみ65歳)定年なのは、検察官の独立性確保のための身分保障というのが定説。定年延長人事で介入されないよう、原則延長禁止にして、代わりに一律63歳にしたという訳。
  • 今回の改正案では、公務員は原則65歳定年なので、検察官も原則65歳だが、次長検事らは63歳で降格してヒラ検事になり、内閣が「特別の事情」と認めた場合のみ1年単位で降格せずに続けられる。ここは全くの新設で、ここが問題点。

 

3.なぜ問題視されるのか

  • 次長検事ら幹部が63歳から定年(65歳)まで従来と同じ職を続けるには、「内閣」から「特別な事情」を認めて貰う以外に無い。その基準は不明確で運用次第のため、仮に当面は客観基準に見えても、自分の時には大丈夫かとの懸念が発生する。つまり検察の独立性(政治的中立性、不偏不党)が後退し、政権への忖度や癒着要因となりうる。法律関係者や野党やマスコミが一番批判しているのはこの点。
  • しかし法案も良くできていて「年功序列は古い」「若手に活躍の場」「降格しても65歳まで経験を生かして活躍できるはず」「客観基準で厳格運用するから問題ない」「実力と実績次第」などが考えられるし、一定の説得力はある。
  • とはいえ、良し悪しは別として検察庁年功序列組織で、降格は事実上の退職なのも事実なので、検察の独立性が弱まり、幹部の実質人事評価者となる内閣のプレッシャーが強まる事は明白。つまり、現行の検察の独立性確保のための身分保障(近代自由主義法秩序である権力分立の一部)を今後も守るか、政治主導を優先して弱めるのか(ある意味で勝者独裁的な権力集中体制に向かうのか)、という話。
  • 次にこれは、年初の黒川氏「解釈変更」の追認だ。当法案自体は2年後発効なので黒川氏は対象外だが、この法案は氏に行った「内閣が従来の解釈を変更して特別に行った定年延長」の制度化で、「前回は法律軽視とか国会軽視と批判されたが、逆に国会で法律化して、今後は常態化させる」「黒川氏問題も、仮に法案成立後なら普通なので、あれは成立前の特別対応にすぎず、もはや過去の終わった話」と正当化できる。

 

4.デマか本当か

まとめです。デマか本当かは、多くの場合は視点次第なので、安易に片方だけ飛びついてはいけない。面倒でも、何事も両面ある事は認識しよう。

  1. 黒川氏の問題?」当法案は黒川氏は対象外なので、直接には無関係。ただし黒川氏問題の追認(制度化)で、官邸による検察独立性の弱体化、という構造は同じ
  2. 公務員全体の定年の話?」一応そう。ただし、検察の独立性を弱める条項を新規追加した点が問題視されている(批判者の大多数はこの条項の削除を求めている)。
  3. 民主党政権から続いている話?」公務員の定年延長自体はそう。ただし、問題とされる検察の独立性を弱める条項は、2019年の改正案までは存在しなかった(このため今回突然に問題となった)。
  4. 三権分立の問題?」検察は政府の一部なので、官邸が検察に政治介入しても「三権分立違反」ではなく、政府内の「権力分立違反」になる。ただし日弁連は「「準司法官」である検察官の政治的中立性が脅かされれば、憲法の基本原則である三権分立を揺るがすおそれ」と声明(後述のリンク先)。また「内容は黒川問題の正当化」「束ね法案に潜ませた」「自公維で強行審議」なども含めて「国会軽視で三権分立違反」という主張も可能(でもややこしく不毛な議論を招くので、避けた方が良いかと思う)。
  5. 「現行でも幹部は内閣の任免対象で、検察の中立性は疑問」現行をどう評価するかは立場次第。ただし今回は、現行より更に後退する事が制度化される、という話。
  6. 維新は成立協力か反対か?」自民・公明・維新は審議に賛成し、維新は法案に批判もしている。これは難しい問題だ。本来国会は、少数派も出席して反対なら反対と主張して議事録に残し、将来は多数派になるかもしれない。ただ、少数派は多数決では負け、出席は成立に近づく(一定の審議時間で審議打ち切り・強行採決がしやすくなる)ので、できれば強行採決は避けたい与党に対して、審議拒否で法案修正や付帯決議などを取引するしか方法が無いのも事実。(自民党も野党時代は審議拒否を多用した。各政党の良し悪しではなく制度運用の問題。)
  7. 立憲は絶対反対か?立憲民主党は今は審議拒否中だが、最大支持母体の連合を含めて公務員の定年延長自体は賛成なので徹底抗戦するかは色々な見方がある。前述の「束ね法案」による人質効果(巻き込む事で個別の反対がしにくい)でもある。立憲の理想は「検察庁法案のみ外して可決(一定期間は不揃いになる)」または「問題の条項を従来の2019年改正案に戻す」と思うが、与党は(党内・与党間で合意済なので)国会では修正を避けたい。(脱線すると、本来は国会が法律を作る場だが、特に日本では与党が大半の法律を合意・提出して修正を避けるため、国会審議自体が形骸化・儀式化している事自体が、この国の別の問題。)

 

5.参考

 

私のテキトーな説明より、是非こちらをご覧ください。大筋では全てポイントは同じかと思います。

 

とんふぃさんの「いったい検察庁法改正案の何に抗議しているのか」

note.com

 

 

  

 

日本弁護士連合会「改めて検察庁法の一部改正に反対する会長声明」

www.nichibenren.or.jp

 

 

毎日新聞社説「検察官の定年延長法案 何のために成立急ぐのか」

mainichi.jp

 

 

nlab.itmedia.co.jp