らびっとブログ

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「改憲」「護憲」どちらもおかしい

昔から憲法の話は関心あるが、「改憲派」も「護憲派」も変な話が多すぎると思う。憲法記念日にちょっと整理してみたい。なお特定政党の批判はしません。

 

  1. 一般論では憲法改正は良い事だ。改憲派は「押し付け憲法」、護憲派は「平和憲法」とか言うが、世界の大多数の憲法も最初は戦乱や革命の中で勝者が押し付けたもので、最初は反発も多く、これが改正のたびに「自分たちの憲法」と意識が変わっていく。民主主義(国民主権)なら「不磨の大典」ではないし、日本国憲法には改正手続きが書かれている。護憲なら改正も認めないとおかしい。
  2. しかし諸外国との改正数単純比較もおかしい。よく同じ敗戦国のドイツが比較されるが、ドイツは大陸法的な法治主義地方自治選挙制度など細かく書いているから改正も多い。日本国憲法では細部は法律に委ねられているから改正すべき頻度は少なくなる。
  3. ただし残念ながら改憲案には勘違いや無理解が多いとしか思えない。「憲法を更に良くする案」より、単に保守派が「気に入らない、邪魔なので弱めたい」風の、憲法論以前も多い印象だ。以下いくつか。
  4. 翻訳調で変な日本語だ」。法律は小説ではない。民法も刑法も元は翻訳だし、専門用語で色々な論点も含むから、ある程度は避けられない。現憲法も国会で制憲時に色々修正後だし、自民党や読売新聞の試案も「美しい日本語」には思えない。無いものねだりでは。
  5. 天皇を元首と明記」。元首や君主は本来は主権者。「君臨すれど統治せず」のイギリス国王(女王)は制限君主ながら政治権力が少しあるが、天皇は政治権限ゼロ。天皇を象徴として戦争責任を回避した歴史もあり、権限復活なら将来責任も伴う。世論調査でも天皇権限増の賛成は非常に少ない。ただの復古ノスタルジーに思える。
  6. 「戦後の個人主義を助長」。現憲法の「すべて国民は、個人として尊重される」は、元々はヨーロッパの身分制憲法の「所属身分ごとの権利義務」の否定条項(サヴィーニ)なので、自民党改正案の「人として尊重される」では、身分制否定の趣旨が消えてしまう。そもそも個人主義進展は現代化・都市化の影響が大きい。「家族保護条項の追加案」同様、条文の無理解か意図的と思える。
  7. 戦争放棄は理想論」。戦争放棄(9条1項)は不戦条約(侵略戦争違法化)が元で、背景は第一次世界大戦後の米仏の国益(対ドイツ、モンロー主義)で、単純な理想論や平和ボケではない。
  8. 戦力不保持は理想論」。本筋はこちら(9条2項)。1946年に政府は「自衛戦争も放棄」と国会答弁し、後に「必要最小限度の自衛力は、憲法でいう戦力ではない」と苦しい解釈変更し、今も自衛隊は「軍隊」では無いとする。改憲派は政治的ハードルが高くても堂々とこの2項を「自衛のための必要最小限度の軍備を保持する」等にすべき。(安保法制改正後も基本は同じ)
  9. 「現9条は変更せず自衛隊を明記」。憲法は組織名を書く場所ではない。警察も消防も財務省も書かれていない。組織名変更のたびに改憲なのか。9条2項が残るなら「どこまでが戦力か」の不毛な議論も残る。政治的に無理やり「加憲」にした案で、筋がおかしい。
  10. 教育無償化、道州制」。維新が主張。しかし法律だけでできるし憲法違反との議論も聞かない。改憲支持者を増やすイメージ作戦で不毛。
  11. 改憲発議を国会2/3以上から過半数」。硬性憲法が軟性に変質して、憲法と法律の関係性が変化して大混乱。政権交代のたびにコロコロ改憲されるかも。安易で無理解と思う。
  12. 新しい権利」。環境権、知る権利、プライバシー、個人情報保護など。どれも最初は議論になったが、文化的生活を営む権利(25条)などを根拠に法律で済むので、そもそも改憲必須ではない。
  13. 最後にまともな改正案を箇条書き。こういうのを議論して欲しい。ただし今の国会は「審議」すると常に多数派が有利(強行採決しやすくなる)なため、少数派(野党)の対抗手段は審議拒否や引き延ばし、との不毛な構造がある(特定政党に限らない)。
  • 天皇の国事行為の削減や廃止。「象徴」に国事行為は必須ではない。総理は国会指名、大臣は総理指名だけで済む。過剰な権威主義だし、政治情勢で天皇が外遊や静養を控えて待機し続けたり。天皇の負担・経費・政治利用問題も軽減。
  • 一院制。過去に共産党や維新が主張。議員と審議の半減には功罪あるが、世界的には一院制が多数派。ただし保守派は旧貴族院感覚と二院活用選挙技術があり困難そう。
  • 解散権の制約。「総理の衆院解散権」は現憲法に明記なく、天皇の国事行為からの強引な解釈だが、国論が割れた時に国民の声を聞くのは民主的と容認されてきた。しかし単に与党有利狙いの解散や、任期直前の無意味な解散も増加し、もはや先進国では日本のみ。有権者判断や選挙費用や議員活動も考慮して、選挙後2年間は解散不可など制限すべき。
  • 憲法裁判所。維新が主張。大陸法的発想で、自由主義的には違和感も。今の門前払いや長期化を防げるし、結論が明快に出て面白そうだが、米国のように裁判所への政治関与が増大する懸念も。
  • 婚姻の条件。現憲法の「両性の合意」では同姓婚が違憲なので「両者」などにするという案。うーん個人的には憲法制定時に「両性」を「同性を除く」との趣旨を込めたとは考えにくいので解釈変更だけで良い気はするし、同性婚心理的抵抗感を持つ層も存在するので単に法律で同性を(婚姻ではなく)婚姻同等のパートナーとすれば実社会上の壁(資産共有、病院面会など)は減ると思うけれど、どうでしょう。