映画「飛んで埼玉」は映画館で泣けたが地上波も良かった。作品上の配慮がうまい。CMが多くて流れ寸断だけどノーカットは嬉しい。しかしTV放映直前のネタばらしまくりは悪質だった。なお私は高知生まれ埼玉育ちの神奈川在住です。
徹底した配慮
この映画は、「パタリロ!」で有名な魔夜峰央が1982年の埼玉・所沢在住時に自虐的に描いた僅か数話で中断の同名漫画が、2015年頃に何故か「この漫画が凄い」と話題になって2019年に実写映画化され大ヒットした「埼玉ディスリ映画」(主演 二階堂ふみ、GACKT)ですね。「パタリロ!」同様に、お耽美・男色・時代錯誤・様式美なギャグ漫画をどう実写化できるか、過激な差別描写がどうなるかかなり心配でした。
しかし公開直後から「良かった」感想が多く、徹底した配慮尽くしのお陰かと。まずポスターからして「茶番劇」と相対化して「何も無いけどいい所」とヨイショ。
映画の構成も、原作部分は「伝説パート」で、映画独自の「現代パート」で劇中劇にして、現代パートの菅原愛海(実際に埼玉出身の島崎遥香)が「伝説パート」を「都市伝説」で「バカバカしい」と繰り返す。原作で友情出演のパタリロが作者に「浦和から文句が来てもしらんぞ」とか突っ込む描写の代わりですね。
更に「伝説パート」内でも、原作ではデパートで埼玉県民とバレた麻実麗らが一般客から冷たい眼を向けられ差別の根深さを再認識するという結構重要なシーンが、映画では一般客はアホっぽく卒倒だけで問題は一部の上流階級だけのように変更されている。
あと原作の「埼玉県解放連盟」は、映画では「埼玉(千葉)解放戦線」とネーミング変更で更に架空っぽく。
そして、あの魔夜峰央のお耽美世界を敢えてそのままコスプレ再現して「伝説パート」の架空性を強調し、交互の「現代パート」対比で飽きさせないのも効果的。「男色」嫌悪者も、現代パートの「BLになってる」との突っ込みセリフで相対化されてる。
もちろん最後は「この映画は埼玉解放戦線制作か」と評されたヨイショのオンパレード、とどめがエンディングのはなわで、これまた最後は評価で終わる。冗談慣れしてない観客を含めて、うっかり本気にしたり怒ったりしないよう、何重もの配慮がされているのがすごい。
埼玉ネタ
埼玉ネタが、大きいものから細かいものまで仕込まれていて、知っているレベルでそれぞれ笑えるのもいい。
「山田うどん」は行きと返りの2回も出てくるし、愛海の婚約者(これまた実際に埼玉出身の成田凌)の車が赤いのも浦和レッズファンだからと思うし(浦和地区は昔からサッカーが盛んだが、レッズは熱心すぎるファンも多く、等々力のホーム側入口にトラブル防止の警告が置かれるのは対レッズ戦のみなのも元サイタマンとして恥ずかしい、どうにかならないのか (^^;)
「与野は黙っとけ」は、昔から行政都市で県庁所在地の浦和(いわばワシントン)と、商業都市で大都市の大宮(いわばニューヨーク)の対立があり、合併交渉は難航して「さいたま市」という変な市名で双方妥協したが、中間の小都市の与野は昔も今も発言権が無いというリアルな話。
もともと埼玉は独自の有名戦国武将もおらず、特に熊谷を中心とした北部と、大宮を中心にした南部が明治の廃藩置県で無理やり同じ県にされた事もあり、何回も分離騒動もありまとまりには乏しい。だから強者を前に分裂気味なのもリアル(^^;)
まぁ名所が無いといっても、川越や秩父や所沢航空公園の他に、長瀞、吉見百穴、サイボクハム、森林公園とか、鉄道博物館、渋沢栄一記念館、ぎょうざの満州、(発祥は富山ですが)富士薬品&セイムスとかもあるけど...北部は疎いけど、どれもマイナーでしょうか(^^;)
まとめ
あの問題作の原作を元に、洒落の通じない人も含めて楽しめる、何重ものうまい配慮が活きている。
脱線するけど、西武・そごうのパイ投げ広告が批判されたのは、画像が暗くて一般人が単にいじめられて見える写真だからだし、赤十字の最初の宇崎ちゃん献血ポスターは中央のバストだけ視線集中する構図のせいだし。
世間はすぐ「表現の自由派」と「公共規制派、平穏生活権派」で不毛な喧嘩をするけど、多くの人は一見での直感判断なので、大半は単に作品制作時のセンスの問題と思う。(特定層向けや批判覚悟で過激表現するのは勿論良いけど、一般狙いのプロなら両立も練ってほしい。)
映画「翔んで埼玉」は、あの原作の作品世界をかなり忠実に実写化して、過激セリフはそのままに、でも多くの一般客にも受容できて見終わって笑顔で帰れる形にして、さすがと思うのでした。