らびっとブログ

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2023映画感想(バービー/トット/ゲ謎/埼玉2/ゴジマイ/ナポレオン/君どう/シン仮面/アリテレ/アンコン/ガルパン最終4)

2023年劇場公開映画の感想を先延ばし病で今頃ですが、貧乏性ながら11本も観たのはシニア料金のお陰だし、評判で会えた名作はSNSのお陰でした。

 

 

①バービー

評判で観たら名作 No.1。日本では人形の馴染みが低く(姉は持ってた)、ジェンダー説教映画と誤解されたのか世間の評判低く残念。

 

まず批判もある冒頭の「バービーに目覚めた子供たちが赤ん坊人形の頭を破壊する」は、もちろん「2001年宇宙の旅」のパロディだけど、「これから始まる映画は子供騙しじゃなくてバービーが神のぶっとんだ世界だ!」宣言だろう。

 

デタラメな世界なのに、レイアウトもテンポもずっと良いし、主役はバービーの定番(Typical)との設定が後に活きてくる。作中の人間世界は問題もあるが法治もあるのがリアルだし、古いバービー世界と現代(アナキストな黒服)とのジェンダー観対決や、バービー製造元のマテル社経営層が世間体なジェンダー観との皮肉も笑える。

 

そして終始喋っているバービーが、隣の老婆に見とれたり、ケンから「相手にされないのは悲しい」と聞いて沈黙するシーンは、ジェンダーの根底は性優遇ではなく人間尊重との暗示でスマート。

 

②窓ぎわのトットちゃん

評判で観たら名作 No.2。これも前評判は低く、当時の少女誌風な絵柄も個人的に好きでないが、とにかく冒頭から最後まで淡い色彩と映像で語る世界が圧巻な驚きの名作でした。

 

ちょうど「若おかみは小学生!」や「この世界の片隅に」を見て良かった感じ。細部のパン焼き機から自由が丘駅の電車、悪人ではない大人たちが抑圧に向かう時代を淡々と。今でも絵柄は趣味ではないが、映画は2023年ベストかと。

 

③鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎

評判で観たら名作 No.3。アニメでここまで溝口正史の映画の雰囲気を出せるとは演出と美術と音声の勝利か。鬼太郎目当ての子供には向かないけど。洋館の戦いも位置関係が判って見事。鬼太郎以外に救いが無い、との評もみるけど金田一耕助でも誰も助からない。

 

ただ最後の決戦は勝算なく無駄なアクション延々にも見えるし、紗代と時弥の成仏シーンはご都合にも思えるので、ウソでも伏線回収を入れて欲しかった気もする。

 

④翔んで埼玉 〜琵琶湖より愛をこめて〜

元埼玉県民としては行かざるを得ないが、原作も無いのに1をどう継承するのかと思ったら驚きのそっくり構成で、しかし1の学芸会的スタイルは画面の隅々まで圧巻の美術と演技でパワーアップで更に驚いた。

 

GACKTと杏の絡みはカッコ良すぎて笑えるし、大阪地下の演舞は大迫力で意味不明すぎる。もちろんディスりに見えてフォローしまくりは2でも健在な快作だった。

 

ゴジラ -1.0

一般人にお勧めできる文芸作品なゴジラ。怪獣ものに多い不自然な展開も少なく、何より登場人物の昭和な立ち振る舞いが美しい

 

冒頭は怪獣も兵士も安直とか、絵的には判るけど震電に沖合誘導は向かないだろう、とかは思ったけど。

 

なお「軍備ゼロ設定の民間丸投げは不自然」との批判も聞くが、これはあくまで「民間側の登場人物達はそう聞いていた」話で、政府や米軍視点は一切描かれてないから、実は次の手があったかも不明で、これで良いと思う。

 

(観た直後の感想)

映画「ゴジラ -1.0」で気にして欲しいこと(ネタバレなし) - らびっとブログ

 

⑥ナポレオン

久々のリドリー・スコット監督作品だが、迫力の攻城戦や、歴史的人物を各断面で印象的な映像に切り出すダークな雰囲気は健在でした。ヒーロー物を期待した人は向かなかったようですが。

 

凍結した青い水中に砲撃を受けた兵士が赤い血を広げながら沈むシーンを延々は悪趣味と映像美の一体化ですね。

 

君たちはどう生きるか

引退詐欺とも言われる宮崎駿監督だが、これは公開前情報一切無しの鈴木敏夫Pの戦略大当たりで、戦災の話か、リアルな鳥かと思わせてのどんどん展開が活きた。

 

過去作オマージュとか監督本人に重ねた評論は、少し違うと思う。過去パターン使いまわしは「カリ城」から定常運転だし、単に異世界転々の冒険ものでも正しいかと。手間をかけ良くできた大作。ただ好きかと言われると「ラピュタ」「紅豚」とか。

 

(観た直後の感想)

映画「君たちはどう生きるか」見て良かった【ネタバレなし】 - らびっとブログ

 

⑧シン・仮面ライダー

樋口監督の「シン・ウルトラマン」のような下品さは無いが、低予算な安物感は共通で、しかしアメコミ風なCG的スマートではなく、着ぐるみ的役者ド迫力なのは庵野監督の持ち味かと思う。

 

個人的には初代の改造人間本来の不条理で暗く悲しいイメージで良かったが、スタイリッシュなヒーローを期待した層には合わなかった気がする。

 

(観た直後の感想)

映画「シン・仮面ライダー」で感じた10のポイント(ネタバレ控えめ) - らびっとブログ

 

⑨アリスとテレスのまぼろし工場

これもSNS評判を聞いて急遽観たが、独特な閉塞感や死生感と青春エロチックな雰囲気をうまく構築した作品だったので、キモくて意味不明との評もまた正しいと思う。

 

ただ狼が来たり来なかったりがご都合に思えたり、ラスト見せ場の追跡劇が変化少なく長く感じてしまった。

 

⑩特別編 響け!ユーフォニアム~アンサンブルコンテスト~

2024年4月からの「ユーフォ3」前の特別編(中編)なので大きな展開は無いものの、「窓を開けるのがうまい」とか、先輩たちの言い合いを新入生は心配するが主人公はわかっているとか、楽器運搬中の描写とか、説明なく映像で見せる丁寧な日常が相変わらず感心する佳作でした。

 

(観た直後の感想)

映画「特別編 響け!ユーフォニアム アンサンブルコンテスト」はあくまで特別編 - らびっとブログ

 

ガールズ&パンツァー 最終章 第4話

これも中編で全6話の第4話で作画は一定品質を保っていると思うけど、特には盛り上がりもなく、個人的にはお約束の全員延々リアクションは流れに水を差すし、極端なファンタジーシーンは(列車砲に向けて戦車が翔ぶとか、ころがる観覧車のように)短めにして欲しいところ。

 

⑫(おまけ:2024年)オッペンハイマー

3月公開予定の「オッペンハイマー」はノーラン監督の人間描写が楽しみ。

 

なお「日本への原爆を揶揄した」との批判は (1)オッペンハイマーは原爆投下を批判した科学者で、(2)バービーとのコラボのファンアートなら「原爆雲を背景に笑顔のバービー」の組み合わせも当然で、(3)それに公式は いいね と「(公開の)夏が楽しみ」と通常の対応しただけで、(4)一部日本人が騒いだから遺憾表明しただけで、(5)そもそもアメリカは原爆投下は正当視(最近の調査で半々)、と勘違いで独善的な「お気持ち」強要は馬鹿にされるだけと思う。

 

以上です。

 

映画「ゴジラ -1.0」で気にして欲しいこと(ネタバレなし)

評判を聞いて急遽公開翌日に観たら実に堅実な邦画だった。ストーリーには触れず、気にして欲しい事を書いてみました。

「ゴジラ -1.0」ポスター

ゴジラ -1.0」ポスター

 

①「-1.0」=「マイナスワン」

「マイナスいってんゼロ」かと思ってた。でも「マイナスワン」では「.0」はどこへ。しかし「初代より1つ前」更には「過去と現在」と思えば実に内容に合ったタイトルだった。なお「シンゴジ」風の「マイゴジ」も見かけるけど順序逆だし「マイメロ」みたい。

 

②特撮ファン向けに限らない

二子玉川の土曜昼でほぼ満員、子供は1割以下だった。基本は巨大災害に直面する人間ドラマだが怪獣映画な見せ場もある。似てると思ったのは丁寧な時代考証とキャラクター描写でアニメファン以外にも広く受容されたアニメ映画「この世界の片隅に」で、「-1.0」も特撮ファンに限らず普通に楽しめると思う。グロは無くセリフも平易で子供も大丈夫だが、戦後の貧しく重い話なので明るく楽しいスペクタクルを期待すると違うかも。

 

③映画として

全編通して抑えた彩度と昭和な立ち振る舞いが素晴らしい。よくある怪獣映画はシーンの繋がりが唐突だったり、戦争映画では現代すぎる言動、最近はCG多用で無暗に回り込むカメラワークが気になるが、「-1.0」は場面転換も自然で昭和な仕草や言動をカメラが実に丁寧に追うスタイルで一貫していたのが最大の驚きだった。これは山崎貴監督の「ALWAYS 三丁目の夕日」などの実績も活きていると思う。同じ素材でも色々な解釈表現があって良いけど、これは一つの完成形かと感じた。繰り返すと、単に背景やセットではなく、神木隆之介浜辺美波の演技と映像が昭和の再現度高すぎ案件。

 

④初代との比較

初代「ゴジラ」は前半が「せっかく復興したのに戦災再び」の衝撃、そして後半は博士や秘密兵器の「少年空想科学小説」で、「シン・ゴジラ」も「-1.0」も基本はほぼ踏襲と思うけど「-1.0」はラストのセリフで主人公の主題に収斂するのが私は良かった。ただスペクタクルや活劇を求める人には人情ものすぎて見えるかも。

 

⑤「シン・ゴジラ」との比較

直前の「シン・ゴジラ」は政府側の主人公が超早口説明して陸上中心なのに対して、現場の民間人数人が少ないセリフでうまく表現して海上中心とは「アルキメデスの大戦」の実績も含めてうまい対比と思うし、基本構成が似ているだけに多彩な見せ方が活きていたと思う。

 

⑥犠牲精神

1980年代に池袋文芸座の再上映で初めて初代を見た時に、ゴジラが近づくビルで報道を続けたアナウンサーが最期に「さようならみなさん、さようなら」と言うシーンで満員の観客がワハハと笑ったのが個人的に凄く違和感だった。自己犠牲を厭わない職業精神は現代の感覚ではアナクロだが、ギャグではない。ここも「1.0」でちゃんとオマージュしていたのも良かった。

 

⑦特攻精神

「1.0」で主人公は元特攻隊員との設定だが、日本人は特攻精神の美学が大好きでマンガでもアニメでも特攻すれば「感動」続出して人気が出る。しかし「僅かな可能性に賭ける」(生きる)と、「組織命令で死ぬべき」(生還は命令違反)の特攻は、似ているようでも全く違う。「1.0」は見終わってからポスターの「生きて、抗え」の意味が改めて考えされられた映画でした。

 

以上です。

 

 

映画「特別編 響け!ユーフォニアム アンサンブルコンテスト」はあくまで特別編

8月4日の劇場公開の翌日に二子玉川109シネマズで。簡単な感想です。

 

 

(シアター入口の液晶パネルのポスター)

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①あくまで「特別編」

良くも悪くも「つなぎ」のスペシャル版で約1時間。劇場では「ODS」(非映画コンテンツ)表記の一律1500円で「劇場版なのに映画扱いではないのか?」と戸惑ったけど、公式サイトに「中編」ともある。昼に客席7割ほど。

 

「ユーフォ」はテレビ1期・2期と、ほぼ総集編の劇場版1・2、スピンオフで映像美と情感あふれる「リズと青い鳥」があり、そして来春(2024年4月)からテレビ3期が発表済なので、シリーズ復習&事前イベント用みたいな作品だ。

 

だからシリーズを知らない人が突然見ると、「これまでのあらすじ」無しにキャラクターが最初から沢山いるわ、終盤の盛り上げ無く「Next Spring」だわ、「なにこれ」かも。

 

とはいえ各キャラ登場時に性格と名前をすぐ出すなど配慮もある(結構忘れていたので助かった)から、関心があればこれから見始めても良いと思う。

 

②それなりに良かった

(入場者プレゼントの小冊子 3種中の「偶発的再開と他愛ない会話について」表紙)

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王道な事件や勝負も無いし、「リズ」のような映像美作品でもなく、今までの劇場版のようなラスト演奏シーンすら無い(演奏の話なのに!)ので、正直1本の劇場映画としては物足りない

 

ただ主人公の久美子を中心に多数のキャラとの「らしい」日常演技はさすがの京アニだし(窓開けとかマリンバ運びとか)、今回のテーマは実はコンテスト自体ではなく「部長になって自信の無い久美子がコンテスト準備の中で自分の意外な才能に少し気づく話」だから、敢えてラスト見せ場は無い構成だったのかも、と思えるのでした(批判も多そうですが)

 

③オマケ

 

(まとめ)あくまで特別編ながら日常のさりげない成長描写は健在に思えました

 

以上です。

映画「君たちはどう生きるか」見て良かった【ネタバレなし】

公開2日目の7/15(土)に二子玉川109シネマズで。前日ネット予約時からほぼ満席。

 

簡単に言うと、

  • 事前情報完全ナシは良かったのでは
  • 前半は「うーん」、見終われば「良かった」
  • 少年少女向けだけどやや高学年向けかも
  • タイトルは話に直接関係ないけど実は関係ある
  • 各シーン考察が溢れそう(でも感じたままでも良い)
  • 宮崎作品の簡潔なセリフ回しや場面展開が健在とは恐るべし(ここ重要)

 

画像はシアター入口のディスプレイ。

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①事前情報完全なし

当日にパンフも無い常識外の情報統制で、鈴木敏夫プロデューサーの暴走とか、批判も含めて宣伝成功とか言われたけど、今回は原作絡みの宣伝ネタも無いし、話の展開を伏せるための予備知識ゼロが向いていたかも。

 

個人的には事前情報避ける派なので今回は楽だった。というか「避けたくても、つい見えてしまう」SNS時代では適切かも。多業種との大規模タイアップ前提のディズニーにはできない、制作主導が残るジブリだからできる手法とも思う。

 

宮崎駿監督といえば

1980年代の「未来少年コナン」や「ルパン三世」(1期後半、カリ城、アルバトロス、さらパ)当時よりマニアから愛を込めて「宮崎ワンパターン」「うんちもおしっこもしないお姫様」「ロリコン」「マザコン」などとも呼ばれて来た、年齢にかかわらず少年のような映像作家。

 

例えば黒澤やワイダやグリモーは力強い映像を繰り出したのに老年期には形式主義に見えてインパクトが感じられなくなってしまったけど、宮崎駿は今も元ネタからイメージをどんどん創出できる映像作家なのだと改めて思った。年齢を考えるとこれ凄いのでは。

 

③良かったのは

ネタバレ回避で印象だけですが、

  1. 劇中で登場する名前は数人もいなくて助かった(^^;
  2. 前半は地味だなー、でもちゃんと展開していく
  3. あちこちの歴代宮崎アニメを連想するシーンはご愛敬
  4. ちょっとした少ないセリフがキャラや背景を感じさせる世界観
  5. 単純な善悪で割り切れない、次第に悪者側のモブまで愛を感じる宮崎イズム

 

多分意見が分かれるのは

  1. ちょっと暗め。漫画映画なトトロより、ハウル風立ちぬやマーニな感じ。でもそれを「つまらない」と感じるか「色々考えさせられる」と感じるかは自由。
  2. 宮崎駿の自伝ではないか。観た後でネットで感想を見ると多い。でもそれを言ったら全作品自分を投影しまくりなので、この作品が特にそうとは言えない気もする。
  3. 最後の超短いエピソード。でも、これだけで判るし、一瞬の方が想像の余地があって「よしっ」と席で小さくガッツボーズしちゃいました。

 

(追記)賛否両論分かれる中で個人的に面白かった感想を勝手にご紹介

・映画出た本の中に講談社「世界名作全集 小公子」があったそうです。

「君たちはどう生きるか」を観てきました - Joy & Jura with Whippet Floren

 

・タイトルも内容も良いですね(^^)

『君たちはどう生きるか』を見て生きかたをすべて理解した - 蟻は今日も迷路を作って

 

・思わず納得しそうになるマザコン映画説(^^;)

「君たちはどう生きるか」の胎内めぐり - 挑戦者ストロング

 

感覚ばかりですみませんが以上です(ペコリ

 

 

映画「シン・仮面ライダー」で感じた10のポイント(ネタバレ控えめ)

一般公開初日の3/18(土)に劇場で観た感想です。ストーリーのネタバレはありません。

 

 

(ポスターの1つ)

 

①一言で言うと

  1. 賛否両論あるけど私は面白かった
  2. PG12で血しぶきシーンはあるけど最初だけ
  3. 子供向けヒーロー物を期待すると違うかも
  4. アクション大作ではなく、着ぐるみで人間が演じる演劇的な迫力
  5. オリジナル世界をうまく押さえた庵野監督世界の「自主制作」

 

「シン」3部作の比較

超オタクな庵野氏なので全てオリジナル世界を深く抑えているけど違いは感じる。

 

③暗く孤独なオリジナルのイメージ

印象は世代でも違うと思うけど、私は小学生頃に観た初代(前半)のテレビと漫画で、拉致され改造人間にされた不条理、暗闇での蜘蛛男との格闘など、暗く孤独で泥くさいイメージなので、「V3」以降の決めポーズのスマートなアクションは違和感があった。

 

仮面ライダーは「サイボーグ009」や「デビルマン」や「タイガーマスク」のような「抜け忍物」でダークな「裏切者」なのだ。その点「シン・仮面ライダー」は初代のイメージをベースに、世代交代にも触れていて好感が持てた。

 

④劇場の様子

土曜の午後で満員だが高齢男性比率が高い(笑)。小学生は1割以下で、終わって喜ぶ子供は見なかった(やはり)。良かった、感動したとの声はちらほら。

 

特典の「シン・仮面ライダーカード」は袋の注意書きの通りネタバレで要注意です(ネタバレはカードの裏面です)。

 

⑤PG12は少しだけ

最初の戦闘シーンで血が飛び散るが、相手は悪役の戦闘員で、血以外のグロはなく、実はその後は無いので、「進撃」や「鬼滅」とかよりソフトな気もするし、ストーリー上の描写でもあり、保護者の判断は分かれそう。

 

⑥着ぐるみ感で自主制作&演劇感

これが最大の特徴では。ハリウッドSFXのように実写と特撮の差を見えなくする「リアルだが飽きやすい」映像ではなく、ライダーも怪人(オーグ)もヘルメットやスーツをいかにも着ている事を強調しまくって「自主制作や演劇風だが人間の演技が迫って来る」感じ。

 

ライダーは完全に変身しても首や髪が見えて防護服にもなってないが、これは庵野氏の学生時代の自主制作「帰ってきたウルトラマン マットアロー1号発進命令」も連想するし、変身後も人間との連続感がある。

 

もちろん「シン・ウルトラマン」の「いかにも人形」な飛行シーンと同じで、「いかにも着ぐるみ」はテレビシリーズへのリスペクト(というか庵野氏の拘り)もあるだろう。

 

そして最後は各役者の迫力勝負で、各怪人のキャラも異彩で、もはや小劇場で演劇を間近で観る感覚だ。主役陣は勿論、西野七瀬長澤まさみもまた視たくなる強烈な印象だ。(軽いネタバレ?)

 

これをハリウッド大作な派手なアクションを期待して観ると「なにこのチープで悪趣味な映像の連続」になりそう。

 

⑦SHOCKERの知性と愛

オリジナルのショッカーは「世界征服を企む悪の秘密結社」だが、映画のSHOCKERはより個人商店風だし、多くの怪人が(アブナイ奴でも)それなりの知性と礼儀を持っているのがメフィラス星人みたいで今風かと。

 

ただの乱暴者集団ではないので、仮に思想に賛同すれば、正義は簡単に逆転してしまう怖さがある。そして狂気の裏には愛がある。これまた監督のショッカーや怪人への(偏)愛を感じる。

 

しかし秘密結社なのにヘルメット背面にSHOCKERロゴとは、ブランド名か製造物責任なのか。これも今風で面白い。

 

あと公式サイトでエンブレムがダウンロードできるのもイカれてる(笑

ショッカー|『シン・仮面ライダー』公式サイト

 

⑧小物への拘り

仮面ライダーのトレードマークの仮面(ヘルメット)、赤いマフラー、風を受ける変身ベルトを、話にうまく組み込んで印象的でした。観終わると、このアイテムはこれしかない、と監督に洗脳された感じだ。まぁマフラーが泡は不思議だけど。

 

⑨そして終盤

まさに演劇世界でエヴァみたい、そして予想通りの古典的エンドロールと、やっと流れるオリジナルの歌が良い。

 

⑩おまけ

・劇場で売ってたポップコーン。暴利と思ったらクリアファイル付き。

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・しかしこれは本当の暴利では(笑

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ちゃんと買った方もいるのも凄い。

【本気か?】『シン・仮面ライダー』を見に行ってなにより驚いたこと | ロケットニュース24

 

 

・最後に、過去に書いた庵野氏関連作品の感想ブログです。よかったら見てね。

 

(1)映画「シン・ウルトラマン」が「シン・ゴジラ」と同じ処と違った処 - らびっとブログ

 

↑は何故か↓で紹介してくれて、突然アクセス激増してびびりました(笑

特撮ファンの「理解と不安」。『シン・ウルトラマン』の感想ブログを集めました! - 週刊はてなブログ

 

 

(2)漫画「アオイホノオ」と「DAICON III オープニングアニメ」 - らびっとブログ

 

以上です。

映画「すずめ〜」鈴芽が草太を好きになる描写が不足?【ネタバレあり】

すみません前回「2回目で気づいた6点」の書き忘れの7点目ですが、ちょっと気になるポイントです【ネタバレあり】。

 

⑦鈴芽が早太を好きになる描写が不足?

1回目は確かに「イケメンに一目ぼれはわかるけど、それだけでは軽薄みたいで、もう少し欲しい」と感じた。

 

でも2回目で、最初に会った時に「どこかで会った気がする」(?)のセリフと、それは幼児期に見た扉の向こう側で立っている男女、と気が付いた。つまり「イケメン一目ぼれだけではないよ」というわけだ。

 

なお子供が母親かと思った女性の隣の男性なら普通は父親と思うのでは?とも思うけれど、鈴芽の記憶には父親不在なので矛盾はない。

 

ここで妄想すると、製作者は「母が1人で育てた」話に加えて、この「謎の男性を父親ではなく恋愛対象に想って育つ」ためにも父親を消した気もするし、すると鈴芽の想いにはファザコン要素も潜在していて、安定の新海監督キモイ(誉め言葉)かも(笑

 

ところで「少し会っただけの女性を男性が命がけで守る」ならばドラマの定番なので、「女性が男性を好きになるには丁寧な心理描写が欲しい」と思ってしまうのも「男は活発な狩人だが、女は貞淑で家庭」なジェンダー認識かも(ちょっと反省

 

とはいえ鈴芽は最初から「ここぞと思えば命は惜しくない」感じの思い切りの良いキャラと思うし、劇中の恋愛描写は最低限にしたことで「想いが深まったのはあそこじゃないか」「いやこっちでは」とか観客が後で色々と想像できる映画になって良かったのでは、とも思うのでした。

 

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(映画館のIMAX用ポスターでテーマは「愛は異種間を超えられるか」←嘘)

 

PS.この画像を貼ってから「戸締り」でなく「戸締まり」と気が付きました...

 

以上です。

映画「すずめの戸締まり」2回目で気づいた6点【ネタバレあり】

公開直後(11/12)に観た後で、2回目(11/20)で気づいた6点です【ネタバレあり】。

 

 

なお2回目も満席で、私は劇場で2回見るのも、上着を忘れて清掃中の劇場に頼んで再入場の失態も始めてでした。

 

①椅子の目は動いてないか?

椅子となった早太は動きとセリフだけで演じ続けるけど、目の輪郭や目の中の白色(ハイライト)を動かすなどの感情表現を実は入れてないのか? が1回目に感じた個人的疑惑でした。

 

そこで2回目に注視したけれど、椅子への影や脚などのデフォルメはあるものの目の動きは発見できず、仮にあっても観客の大半は気づけないレベルとしか思えない。

 

ディズニーなアニミズム世界とはまた違って、異世界のダイジンやミミズはデフォルメ多用で、現世の人物や椅子はリアリティを保つ、描き分けて併存なバランスが良い作品と思います。

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(ポスターの椅子も、目はただの穴で、目の中の光源の反対側に白が入っているが、作品中もずっと同じでした)

 

②ダイジンは正直者か?

1回目でも、邪悪な悪魔の使いに見える白猫のダイジンは、実は最初から素直な感情(すき!)と事実(ムリ!人がいっぱい死ぬよ)しか言っていない気がしたが、本当だろうか。

 

見返したら本当でした!主人公と観客をうまくミスリードさせる運びが絶妙です。(リアルでも印象操作と事実関係の違いに気を付けましょう笑)

 

(11/23 追記)要石は元は人間の人身御供らしく年月をかけて神となる孤独な存在だけど、すずめが偶然にも開放してくれて、訪ねていくと餌と水をくれて「うちの子にならない」とは女神に見えたかも。その女神の隣にいる要石を戻したい危険人物を「お前も窮屈な身体になれ、そして自分で要石になれ」と呪うのも当然にも。

しかし人間の犠牲を減らすため後ろ戸の場所を知らせ続けて、最後にすずめが要石になる決心をすると、黙って自分が身代わりに戻っていく。

こう思うと「すずめの自業自得の騒動話」から「ダイジンの自己犠牲愛の物語」にも思えるし、全2作の「宿命を持った巫女」の要素は、救われてハッピーエンドになる早太だけでなく、納得したにせよ石に戻るダイジンの両方なのかも。人知れずサポート役で消える人間と、それを活かして未来へ向かう人間、どちらも現実。深読みですが。

 

③サダイジン良くわからん

1回目は、要石はなぜ東西2個か、東の要石はいつ誰に抜かれたのか、なぜ環の深層を代弁したのか、なぜダイジンよりでかいのか、などなど謎だらけ

 

見返したら、やっぱりわからん。良く言えば、主人公達にも「結局よくはわからなかった部分」のままで良いとも思う。謎解き作品でもないし無理に苦しい説明なくてもいい。

 

ぶっちゃければ、最終バトルで手前には主人公と子猫、背景には巨大怪獣格闘の絵が欲しかった、そして何より「最後の戸締りを主人公2名で対等にするには要石が2個必要だったから」が製作側の本音に見えるので、後付けの設定詳細を余り語るのは野暮にも思える。

 

④芹澤はなぜ後半から?

地方で生きる人々と対比してチャライ東京な芹澤だけど、2回目で気が付いた。

 

ネコが喋るとか非現実的な出来事に、前半はすずめが「ええっ」連発でバランスを取っていて、すずめが覚悟を決めた後半は芹澤が「ええっ」役を引き継いだ構成なんですね。

 

非現実が当然のように続くと観客も嘘っぽく感じるので「ええっ」の突っ込みは欲しいし、その後の諦め感との反復がコメディ。個人的には芹澤のいない本作はありえないくらいナイスでした。

 

ところでお茶の水は堀・地下鉄・橋のビジュアルが有名ですが、都会というより学生街なので、地に足が付いた選定に思えました。

 

⑤幼児向け?震災シーンが多い?

1回目の後に少し世間の感想を拝見して。

 

マクドナルドの陰謀もあるのか土曜午前の上映で幼児が1割ほどでしたが、上映直後に「面白かった」風な子供は見えなかったような。暗い画面も多くて、歩く椅子との楽しいディズニーアニメではないし。ただ年齢に拘わらず色々な作品に触れる事自体は良い事かと思う。

 

また「知らずに観て震災描写にショック」との声もあるようですが、実は直接犠牲になるようなシーンは無く、家の上に船(直後ではなく蔦が絡まる廃墟)、日記の日付が「3 11」、上空から見た真っ赤な地上(街?)とか、「当時を知ってる人だけが連想できる」配慮はあったと思う。

 

⑥どこがラスト?

2回目でやっと判ったけど、「戸締まりの話」は扉の前でスパッと終わっていて潔く、続くエンドロールでの後日談イラストはロードムービーのおしまい、そして最後に最初の舞台に戻って「おかえりなさい」と本を閉じるようなボーイミーツガールのラストとは、万人向けにエッジが効いた構成でさすがに思えました。

 

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二子玉川109シネマズのポスター)

 

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(ポスターの監督サインの拡大)

 

以上です。

映画「すずめの戸締まり」は期待を裏切らない新海ワールドでした。

劇場アニメ映画「すずめの戸締まり」は新海誠監督の前2作「君の名は。」「天気の子」とはパターンは違えど同じ方向性で、コメディ・旅・災害・人間模様などを盛り込んだエンタメ作品で楽しめました【ネタバレ最低限】

 

 

できれば映画館で、入場特典は後で読みたい

前2作と同様に外界を遮断して一気見できる映画館が向く作品ですが、入場特典の「新海誠本」はネタバレ満載なので先に読むのは避けたいと思います。(表紙の裏に「ご鑑賞後にお読みください」とありますが、見たいページから見てしまうとこでした)

 

公開日翌日の11/12(土)の二子玉川109シネマズでは、全35スクリーン中の7スクリーンが同作で、ほぼ満員でした。

なお作品側の問題ではないが、この「スクリーン独占」状態は問題視もされている(日本全国のシネコン、『すずめの戸締まり』にほぼ戸締まりされる

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(入場特典の「新海誠本」中の企画原案の絵の一部。椅子のシンプルな造形がキュート。)

 

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(館内の壁ポスター。キャッチコピーの「行ってきます。」が鑑賞後は別の実感に。)

 

公開の数日前は、大して内容のない自分のブログで過去の新海作品感想のアクセスが少し上がったのも世間の期待を感じました。

 

まずはキャラクターが良かった

主人公の鈴芽(すずめ)はポスターでは前2作より大人びた絵柄に見えたが、喜怒哀楽豊かな表情とセリフは健在で安心。巻き込まれ役で最初は「ええっ」ばかりなのも笑える。声優の原菜乃華が声優初挑戦とは信じがたい。そして「スズメのミミズ退治」なネーミングも判りやすい。

 

次に相手役の草太(そうた)は、監督作品らしからぬ大人イケメンなビジュアルが不安だったが、作中の大半では椅子としてコミカルな演技を延々続けるというギャップが面白い。この椅子は目も動かないので、動きとセリフだけの、まさにアニメーション映像ならではの表現も実はすごい。

 

ペット的外見ながら悪魔的なダイジンは、きまぐれで自分勝手なのは日本古来の祟る神や猫の特性と同じで納得できて、また実は決して嘘はつかないのはキュウべえとも似ていて、実は身勝手な人間に対比させた神の化身のようで、また見返したくなる。

 

そして他のサブキャラが全て実在のように活きている作品世界。個人的にはメインキャラより良かったくらい。

 

話の展開は

最初のバトルシーンは相手のミミズはもっと見せなくていいのでは。予告編の見せ場用かも知れないが、鎮める相手が段々エスカレーションするという定番パターンが弱い気がする。

 

しかしその後の日本縦断の旅は予想外な展開、クスリと笑えるシーン、魅力的なサブキャラ陣と、展開が見事だ。説明が少なく観客の推測の余地があるし、決めセリフの変化も楽しい。

 

キャッチコピーの「行ってきます。」も、ポスターでは「どこでもドアで異世界に旅立つ話か」と思わせて、納得な展開を映像だけで語るのも映画的で良い。

 

監督作品の代名詞ともなった「リアル背景」も「天気の子」よりは光を抑えて、再びキャラと展開に集中させた気がするのも良かった。

 

また「扉」を探す中で、廃墟の観覧車の物理的な怖さはリアリティとオリジナリティを感じた。

 

ただ椅子が身体に「慣れてきた」セリフは、高速で走り出してからではご都合に見えるので、少し前にそれとなく触れても良かったのでは。

 

ところでオープンカーの自動収納ルーフを高速走行中に戻すのは風を巻き込んで大変危険なので真似しないようにしましょう(笑

 

君の名は。」「天気の子」と比べると

比べると「君の名は。」はキラキラ東京と「愛は災害を救う」で、その反省もあり「天気の子」は東京ダーク面と「災害より愛を選ぶ」になり、また「天気の子」の「男の子が宿命の女の子を救う」ジェンダーな関係性も「すずめ」では逆パターンになった。監督が自分の作品の反響をみては「それだけとは限らない」とバランスを取り続けているような。

 

でも常に災害が裏表だが、過去を抱えながらも信じた方向に進みたい、というのは一貫していて、一連の3作品は監督の作家性が現れていると思う。

 

これは宮崎駿監督が「男の子がお姫様を助ける、うんちもおしっこもしない女の子」と言われ続けた後に、「ナウシカ」や「魔女の宅急便」を作ったのと似てるようで、パターンは変えても根(世界観)は同じなのが作家性かなと思う。

 

これを「またこの世界観か」と見るか、「この作家世界が良い」と見るかは観客の自由だろう。

 

もともと新海作品は1作目の「ほしのこえ」からコア信者と「自己陶酔でキモイ」との嫌悪派に分かれやすいし、初期のマイナーな世界観が好きな人には、「君の名は。」以降の「メジャーへの転向は裏切り」と批判的な人もいる。ただ自主制作や実験作品と商業作品をいったりきたりのマルチで多芸なアーチストは昔から多いし、「浮気しないのが道だ」の美学には権威主義な弊害もあり、どちらが偉いという訳ではないと思う。

 

まとめると「すずめ」は前2作と同じ方向性ながらパターンを変えて、コメディ・旅・恋愛・スペクタクルの要素をうまく組み合わせたエンターテイメントになった成功例と思うのでした。また見返したい。

 

以上です。

映画「シン・ウルトラマン」が「シン・ゴジラ」と同じ処と違った処

公開2日目の5/14(土)に二子玉川の映画館で見て普通に面白かったので、ネタバレ控えめで感想を書いてみました。

 

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(映画館の入口ディスプレイの写真)

 

公開後の最初の土曜の午前で、IMAXは混んでいたので普通の2Dで、座席は7割ほどで子供から若者・年配まで幅広かった印象です。

 

なお「シン・ゴジラ」ほどではないですが、画面に巨大な字幕が次々映るシーンもあるので、なるべく読みたい人は後ろの座席が良いと思います。

 

シン・ゴジラ」とスタッフやキャストの共通点も多く、実際似ていたので、つい色々比較しながら観てしまいました。

 

 

テレビの初代「ウルトラマン」は

さてテレビの初代「ウルトラマン」は幼稚園の頃で、続く「ウルトラセブン」と「帰って来たウルトラマン」まで見たけれど、特に初代「ウルトラマン」はオムニバス的で回によってコメディ調だったり、単純な正義で割り切れない話があったのが子供心にも印象的でした。

 

例えば相手の怪獣や宇宙人も、

  • 村人に差別される孤児の女の子(雪んこ)を助けに現れるウー
  • 自分から攻撃しないのに、巨大で迷惑と人間に攻撃される不条理なスカイドン
  • 宇宙開発競争の犠牲者が、元は人間と隠されたまま抹殺される悲惨なジャミラ
  • ウルトラマンが過去に退治した、静かな宇宙墓場に帰りたいだけの嘆きのシーボーズ
  • 母星が核実験で滅んで宇宙難民となり地球への移住を希望するが、数多すぎと闘いになり、最後にウルトラマンが母船で眠る20億人を当然のように母船ごと破壊して終わるバルタン星人(!)

 

うーん、今見ても凄いものを子供向けに放送していたもので、今のエンタメ枠では収まらない。

 

「怪獣もの」の中に、正義とは何か、人間とは何か、の問いかけが潜んでいる。沖縄出身の脚本家の金城氏や、実相寺氏の特徴的な映像にも熱心なファンが多いのも納得です。

 

シン・ゴジラ」と同じところ

①主人公側は常に自衛隊と行動する

初代の「科特隊(科学特捜隊)」は特別な研究機関か特殊部隊か、という感じですが、この映画の「禍特対」は政府配下で、現地で自衛隊の指揮権も引き継いだりします。

 

攻撃シーンでの連携を考えれば自然かもしれないですが、それではまるでゴジラガメラシリーズで、謎追及で探偵要素な「ウルトラQ」後継シリーズに思えない気がします。

 

特に最初の2回の出動は自衛隊の野戦テント内の映像までそっくりだし、主人公が突然「子供を助けに行きます」と単独行動するウルトラシリーズのお約束も背後に屈強な自衛官が多数映っているのでは「出口に近い隊員に指示した方が早いのに不自然すぎ」でしょう。まぁ前半は「シン・ゴジラ」ファン向けのサービスシーンでしょうけど。

 

②政府や外交の駆け引き

これも「シン・ゴジラ」同様にテンポ良く早口セリフと表情で見せるのがうまいけれど、「シン・ゴジラ」では感情移入させたいためか日本被害妄想な視点も感じましたが、この「シン・ウルトラマン」は色々な思惑が並立している感じウルトラシリーズ風に思えて私は良かったです。

 

③仲間との描写

相棒役の長澤まさみの「こんな奴いるか」感は「シン・ゴジラ」と同じですが、変態的な「匂い」シーンも主人公側は健全で、「バディ」軸の会話もシンプルで判りやすかったと思う。ゼットンと人類の関係も(賛否あるけど)まぁオリジナル尊重でした。

 

シン・ゴジラ」と違ったところ

①意図的に昭和な特撮

怪獣もののリメイクでは、ハリウッド版「ゴジラ(GODZILLA)」のようにオリジナルの雰囲気とは異質すぎて別物なものや、逆に「キング・オブ・モンスターズ」のようにオリジナルへのオマージュは素晴らしいしリアルだけど「CGでリアルにすれば良いのだろうか」とも思えてしまう(なんとも勝手なものだが)。

 

シン・ゴジラ」ではオリジナルの雰囲気を保ちながらもリアル路線だったけれど、「シン・ウルトラマン」は意図的な「着ぐるみ&人形」表現なのが、いかにも庵野氏の趣向に思え、しかし光線合戦などはド迫力で、これは一つの方向性と思いました。

 

当然「お粗末な画像、幼稚な特撮」との批判も多いし、予算制約もあるようですが、良くも悪くも意図的かと。

 

②オムニバス的

ゴジラシリーズは映画なので巨大な敵を倒しておしまいですが、ウルトラシリーズはテレビシリーズなので毎回相手が変わり、たまに関連性もあったりします。

 

「シン・ウルトラマン」も複数の怪獣(禍威獣)や宇宙人との闘いで構成されていて、実は関連したり、「何故日本ばかり襲われるのか」とのお約束へのツッコミにも関連して、ここはウルトラ風で良かったと思います。

 

カタルシスが少ない(軽いネタバレ)

いくつか感想を拝見すると、やはり感じている方は結構いる気がします。

 

怪獣ものはどれも最後はクライマックスや必殺技で盛り上げるし、それはウルトラシリーズや、スポ根もガンダムエヴァも基本は同じでしょう。

 

ところが「シン・ウルトラマン」は実は最後の2戦は余り激しくないし、子供の憧れだった「光の国」が実は敵みたいで最後もすっきりしないので、観終わると消化不良に感じます。

 

ただ初代「ウルトラマン」は最初に書いたように、ウーやシーボーズなど最後は倒さないけれど人気の高い回も結構あるので、これもスタッフの意図的な構成かなとも思いますが。

 

賛否をまとめると

  • 禍特対が数人だけで不自然」これは「マジンガーZ」の光子力研究所とか「ガッチャマン」の科学忍者隊も含めて「ヒーロー側の部隊は数人まで」な伝統だけど、前半で「シン・ゴジラ」風に中途半端にリアルに自衛隊と行動したせいもあって目立ってしまった。
  • 画像も特撮も下手」これは人形・着ぐるみの昭和の特撮再現とか、人間巨大化の静止画風も異質感を出す意図的と思うけど、ここは評価が分かれて仕方ないと思う。何でも「リアル」が良い訳ではないけれど、「シン・ゴジラ」と比べると映像全体が安っぽいのは否めない。
  • 複数の話が詰め込まれて散漫」これもウルトラシリーズ再現なので半分は仕方ないのでは。
  • なぜ人間の味方するのかわからない」これもウルトラシリーズだから(こればっか笑)。いくら説明しても、最後は論理的ではない「責任感と想い入れ」で仕方ないのでは。
  • 腰を叩くアップがセクハラ長澤まさみはセクシー役で、真面目な主人公には効いてないから必ずしもNGではないと思うけど、過剰なドアップの繰り返しが下品に見えたと思う。例えば画面の隅でポンとやって、気付く人は気付く程度がスマートだったかと。
  • 最後に爽快感が無い」実は初代テレビ版のラストは、もっとあっけなく倒して「ええー」だったので、これでも無理やり共同作業にして盛り上げたとは思う。ところで一番最後の「結局どうなったのか」の判断を観客に委ねるスパッとしたエンドは個人的には良かった(後日談を延々はダサイ派なので)。これも賛否は分かれているようですが。

 

それではまた。

映画「アイの歌声を聴かせて」実は名作説は本当だった

10月29日公開で既に打ち切り懸念の「アイうた」だが、ツイッターで実は名作説が聞こえて試しに観たら、普通にとても良くできた映画だった。騙されたと思って無情報のまま観るのが吉。アニメというより映画ファンに。(最終更新 2021/11/14)

 

ポスターなどの画像は、悪いけどキャラデザ、美術、作画どれもキャッチーでないし、新しさが感じられない、つまり地味すぎ。歌の土屋太鳳のファンだけが行く作品かな、とか思う(失礼

www.youtube.com

 

ところがSNSで一部ファンから熱狂的な評判が聞こえてくる。ほんとか?

SNSで広がる『アイの歌声を聴かせて』の感動!ミュージカルアニメ映画史上最高の名作を絶対に今週末に観てほしい理由 | cinemas PLUS

 

公開2週間後の11月13日、早くも渋谷で上映館が消え、109シネマズ二子玉川でも早朝8:30のみで、館内にはポスターなど皆無の扱いで、10シアター中で一番座席の少ない部屋なのに空席半分の中で観ながら思った。

 

クチコミ人気爆発作品は事前認知度は低くても、「カメラを止めるな!」は一見してうまいカメラワーク、「この世界の片隅に」は原作通りのキャラと映像美、そして「若おかみは小学生!」は全編驚きの作画・美術・音響レベルと、冒頭から誘因力があるのに「アイうた」は冒頭もやっぱりキャラデザも美術も作画も平凡な感じだ。

 

最初は「サマーウォーズ」チックに始まり、少しローカルな普通の街で各デバイスだけ最新AI搭載の描写は今風で良いなーとか、主人公サトミがAIシオンに会ってすぐ秘密を守らねばと思うあたり説明セリフが最少でうまいな、と思う程度だったが、典型的な勘違い嫉妬のヤナ女役で出てきたはずのアヤが教室の画面の左下隅で微妙なリアクションをするあたりから、あれ、実は群像劇で演技が細かいんじゃないの、と。

 

そして「ポンコツAIが引き起こす学園ドタバタコメディ」なのに早々に皆にバレて、残り時間は何するんだーとか思ってると、万能イケメン風なのに悩みもあるゴッちゃん、それを理解はできないままで友人達でもある、マニアなトウマや柔道一直線なサンダーとの会話がリアルでホントにありそうだ。

 

そう、2階に居るシオンをサトミの彼氏と誤魔化すトウマが画面隅ではたかれたり、サトミのためのトウマの歌に「歌詞も違うし」と突っ込んだり、アヤがシオンの身代わりに歌おうとしてすぐ諦めてゴッちゃんに突っ込まれたり、登場人物ごとの背景ある細かいセリフや演技が、画面の端を含めて全編続くのだ。実写なら俳優のアドリブもあるけど、アニメでこれって凄いんでは。

 

とまあ細かい発見は以下の長すぎるタグが面白いし、再発見が沢山あるくらい実は凝っている。

#細かすぎて伝わらないアイの歌声を聴かせてのここが好き選手権 - Twitter Search

 

アヤとゴッちゃんだけで1本作れるのでは、なんてツイートも見かけるようにサブキャラも実在感がある。

 

つまり「アイうた」には、宮崎アニメの超絶作画とか、「天気の子」の主観的リアル新宿美術とか、「竜とそばかすの姫」の魅力的な細田キャラとか、そんな花は一切ない。星間エレクトロニクスのツインタワーの外見は最後まで平面的だし、滅茶苦茶動き回るようなアクション作画シーンもない。

 

むしろ、星間に捕まって個別に説教を受けるシーンで、椅子だけ映ったらサンダーが窓に壁を押し付けられる(単細胞!)とか、ベッドでシオンが眼を開けるとか、無暗に枚数を使わずに効果を出しているのがうまい気がする。

 

観終わってから、この作品は地味なキャラデザや作画や美術で正解なのではと思えて来た。シオンの美少女やゴッちゃんのイケメン扱いも所詮はこの高校内の話だし、「桐島、部活やめるってよ」みたいに普通の高校生の登場人物数名に実在感があれば良くて、アニメで映画してて凄いんじゃないか...とか。

 

なおIT関係者としては、古典的な人間vsロボット対立ではなく、代わりに一般人がみな非常停止ツールを持ってるのは納得感あるし、ファイヤーウォールとかビル全体オフラインとか最低限のセリフでうまく済ませてたし、ラストの「空へ」は歌詞だけでなく、ネットへ脱出では別れにならないし人類の生死をAIが握ったホラーで終わらせない配慮もあると思う。まぁパスワードに誕生日(数字8桁だけ?)は、半沢直樹じゃあるまいし、今ではありえないが一瞬のセリフなのでご愛敬スルー。

 

まぁ巨大企業とのバトルはちょっとテンプレ感だけど、最後のカタルシスには仕方が無いし、単純な善悪では終わらないし。

 

そしてミュージカルだけど単なるファンタジーパートではなく、劇中で実際に歌ってるシーンだし、歌詞がいちいち話にシンクロして、エンドロールの後まで旋律が残るのが良い。

 

最後にネタバレは避けるが、AIものなので、やはりアシモフの古典的SF名作「私はロボット(われはロボット)」や、その影響を受けた手塚治虫の「火の鳥」シリーズ、そしてスピルバーグの映画「A.I.」などに流れる、ロボットは果たして自己学習(自己進化)ができるのか、できるならばそれはもはや生命(友達)と言えないのか、といった哲学的発想も共通するし、また作中ではそんな話に触れないのもいいと思う。今もいるのかもって夢があるし。

 

そして一般的日本人が最初に身近な学習型AI(育成ゲーム)としてすりこまれたのは、やはり「たまごっち」と再認識させられた。(オタク向けには赤井さんキャラのPCゲーム「プリンセスメーカー」が先でしたが。)

 

という訳で、地味要素満載ながら、実は映画好きにはお勧めしたいし、伏線回収の嵐なので映画館でじっくりが向くけど、果たして打ち切りか逆転ロングランか注目されますね。

 

PS. これ書いてる途中でTV CFを初めて見たけど、やはりとっても地味~(苦笑

 

(了)

 

映画「時計じかけのオレンジ」実は政治風刺が現代的だ

前回書いた「博士の異常な愛情」の次はやはりこれ。「時計じかけのオレンジ」(1971年、監督 スタンリー・キューブリック)。

 

多くの記事やブログで紹介の通り、美しい音楽に合わせた暴力シーンが衝撃的なキューブリック監督映画だが、見返して感じた事をいくつか。

 

  1. 近未来SFでCGも無い時代もあるのか、大半が屋内、屋外もごく一部で舞台演劇な感じ。やはり造形が印象的な近未来SF映画華氏451度」(1966年、原作 ブラッドベリ、監督 トリュフォー)も連想して、古臭い印象もあるし、断片映像から人間の内面を象徴的に描く作品なのでこれでいいのだ、な気もする。
  2. 時々のワンカット長廻しが異様でいい。冒頭から観客を引き込む有名なアレックスの眼からミルク・バー室内への引きは勿論、定点的な客観描写が逆に怖い「雨に唄えば」の暴力シーン、開放的な川辺から暗い橋下まで情景が暗転して恐ろしい高齢浮浪者再会シーンなど、記憶に残ってしまう。
  3. なんか最初の紹介部分は大友のAKIRAにも似てる。若者不良グループがドラッグで暴走族、対立抗争では敵側を更に悪く描く、主人公は大人には卑屈さを込めた言動で馬鹿にする、など。読者の共感ゲットには自然な構成ながら。
  4. 今回、政治風刺がかなり入ってる事に気が付いた。ごく断片でしか語られないが近未来のイギリスでは政府は効率重視な全体主義(格差拡大、人権軽視の新政策で刑務所を開けて政治犯を入れる)で、悪い意味のポピュリズム(国民は愚かと思い当面の選挙優先で政策を簡単に変える)な政府で、それに反対する作家など(恐らく左派陣営)は政府の新政策の反人道性を訴えて主人公の自殺を望むが、政府に排除された(ようだ)。ディストピア的な舞台背景はオーウェルの名作「1984年」にも通じるが、「時計じかけ」ではマスコミと選挙はあり右派は新自由主義的な権威主義、左派は政府批判重視でルサンチマンを抱えるなど、既に現代的な構図なのがさすがと思う。イギリス人の皮肉を込めた政治的嗅覚なのだろうか。そしてこの世界で主人公の両親が、本当に普通で平凡で善良で愚かな一般市民で、でもその立場になって想像すると悲しくなってくる作品でもあるのでした。

 

(了)

 

映画「博士の異常な愛情」この美しくクレイジーな核爆発

U-NEXT解約前に古い映画を再鑑賞してる。U-NEXTに特に不満は無いが、4 ユーザーIDあっても家族は見ないし、1人なら月額1990円は割高なので。

 

正式タイトルは「博士の異常な愛情 または私は如何にして心配するのを止めて水爆を愛するようになったか」、鬼才キューブリックの最後のモノクロ作品で、ブラックな風刺コメディでピーター・セラーズ主演(一人三役)だ。

 

小学生の時にTV、学生の時の池袋文芸座と、今回で3回目と思う。文芸座では観客が、陰謀論に陥った将軍の説明の「体液」あたりで笑っていたのがちょっと違和感。面白いけど、陽気にアハハと笑えるシーンなのだろうか。

 

「政府や軍の首脳陣のドタバタ劇」と思われそうな作品ながら、実は各登場人物はよくやってる。だからこそ「これでもダメとは、今の世界の方が変なのでは」との風刺が効いてくる。

 

  • まず美しい音楽と手描きクレジットにB-52爆撃機空中給油の映像が違和感なオープニングが洒落てる。
  • 爆撃機機長のコング少佐はテキサス訛りの不器用な軍人だが、「R作戦」発動後の機内スピーチは名演説と思う。「私は演説は苦手で、皆も複雑と思う。平気で核兵器を落とす奴は人間じゃない。しかし我々を期待している国民がいる。うまくいけば皆昇進できるぞ。人種や宗教の差なく皆一緒だ。」素朴ながら皆の不安を汲み取り、士気を高めて一致団結、モラルあり差別主義もなく、みんなでこのB52を応援したくなる(それが人類破滅になるのがブラック)。反軍や反米に見えないための重要な存在だ。
  • アメリカ大統領は決断まで20分の中、冷静に状況を聞いて、次々に手を打ち、酔っているロシア(ソ連)の首相に懸命の説得を試み、全面攻撃は即却下する。ほとんど理想的対応なのが凄い。これはイギリス派遣将校のマンドレイク大佐も。
  • ストレンジラブ博士マッドサイエンティスト風だけど実は解説役が大半。でもラストの「私に考えがあります。総統、私は歩けます」はナチス選民思想復活か、人類非運命論か、両方に解釈できそう。
  • そして美しい「また会いましょう、笑顔を忘れずに、青い空の輝きが黒い霧を払うまで」の名曲が核爆発連発映像にかかり、放射能半減期の100年後まで地下生活する人類の明るい将来を希望を持って歌い上げる?有名なブラックすぎるエンディングは、後の「時計じかけのオレンジ」や「2001年宇宙の旅」でのクラシック音楽(更には「DAICON IV」核爆発による地球再生)にも通じる映画ならではの価値転倒なミスマッチの妙ですね。

 

この作品は良く「米ソ冷戦時核兵器均衡を風刺」と形容されるけど、STARTなどの戦略兵器制限条約は色々できたものの、相互確証破壊(MAD)自体は今の米ロ間も全く変わっておらず、世界が慣れただけ。双方の規模も体制も中国や北朝鮮の比ではないのですけどね。

 

(参考)

予告編(なんか、わけがわからないですね)

オープニング

エンディング

町山智浩の映画塾!「博士の異常な愛情」<予習編> 

『博士の異常な愛情』シリアスドラマをブラック・コメディへと変貌させたキューブリックの革新性

 

(了)

 

映画「TENET テネット」うーん

映画「TENET テネット」(2020公開)見た。軽いネタバレあり。

 

クリストファー・ノーラン監督が「ダークナイト」で見せた、表情を抑えたアップ連続での観客が窒息しそうな息詰まるダークな人間描写は健在だった。

 

前回作「ダンケルク」では得意の主観映像と違ってスペクタクルシーンに無理を感じたけれど(以前の 映画「ダンケルク」いまいち 参照)、今回は戦争ものでもない。

 

しかもタイムリープの時間ものとなれば、ハインラインの古典小説「夏への扉」、「バック・トゥ・ザ・フューチャー」、「君の名は。」などのファンとしては見ない訳にはいかない。

 

(脱線)ところで私はコロナ禍以来初めての映画館で、入口で半券を切らない、1席間隔の座らないでください表示、20分間で全空気入替との換気案内映像を初体験。たまたま109シネマズのファーストディ(毎月1日は大人 1200)で、ファンな「NO MORE映画泥棒」の逃げ回る新作もスクリーン鑑賞できた。

 

タイトルの「TENET」は「信念」などの意味だが、回文で主題の時間逆行にかけてる。

 

冒頭のキエフの劇場でのテロ事件はガス攻撃を含めて、2002年のモスクワ劇場襲撃事件(チェチェン独立運動)がモデルと思うが、広いホールと狭い通路の対比が効果的な導入。

 

ちょっと不可解な画面があちこち出ても「君の名は。」同様に覚えておきたい。

 

ただスパイものなので絶体絶命の危機連続は良いが、敵の機嫌次第で簡単に殺される場面や、銃撃の中で全く当たらない場面が何回も繰り返されると、偶然すぎてリアリティが減ってくる気がする。せめてパターンを変えて欲しかった。

 

売りの時間逆行は、SF的に時間の整合性を発見したり語り合って楽しむ作品なのか、「マトリックス」のように「んなバカな」と気軽に映像を楽しむ作品なのか。多分後者かな。

 

バンジージャンプでのビル侵入は、ゆっくり上昇が新鮮だった。

 

ただ普通のスパイ映画は小さな工夫で大きく実現なのに、空港もハイウェイもヨットレースも大作戦な割に目的が単純だ。見せ場と伏線作成優先なのか、無駄すぎる作戦に思えてしまう。

 

ハイライトの赤/青腕章の2部隊突入は映像的には面白く、遠景でどう見ても後ろ向き歩きしてるのはご愛敬だが、なんで逆行部隊先行で先に地上の敵を一掃しないの?と、つい思ってしまう。

 

そしてハイライト山場の対決は、相変わらず主要人物は流れ弾も気にせず、結局は普通の地味なバトルなのはちょっと残念。時間ものなのに時間が決定打には見えない。

 

後半で種明かしは「カメラを止めるな!」形式かも。

 

人間も映像も魅力的で緊迫感あるけど、気楽に見ると話がわからず、真面目に見ると色々気になってしまう、ちょっとうーんな感じでした。

 

(了)

アニメ「リズと青い鳥」

劇場アニメ「リズと青い鳥」(2018年)は「響け! ユーフォニアム」シリーズ(TV 1,2期、劇場版 1,2)のスピンオフ作品で、無口なみぞれと良く喋る希美(のぞみ)の2人を描いた映画的な佳作だった。

 

U-NEXTで2か月前の別料金から「見放題」(標準料金のみ)になってたので観た(我ながらせこい)

 

ユーフォ」は吹奏部という珍しい舞台とアニメでのリアルな演奏描写で話題になったが、実は学園スポーツもの王道で、経験者の主人公が入部、そこへ鬼監督登場、割れる仲間、実は複雑な人間関係、過去や想いですれ違い、でも最後は大会に一致団結、ハイライトシーンは音楽で盛り上げ、という判り易い青春群像ものが背骨だった。

アニメ「響け!ユーフォニアム」1, 2期の感想 - らびっとブログ

 

「リズ」は違う。

 

宣伝画像も地味だが中身も地味。極論すると女子高生2名だけの全編百合、何日か練習してるだけ、事件は何も起きない、大きな変化すらない、最後の大会もない。「なにこれ」と思う人は多いと思う。

liz-bluebird.com

 

 

でも冒頭の20分間がもう圧巻だ。

 

カラフルで水彩風の絵本パートでの、暖色系のリズと赤いアクセントのある青い鳥。

 

直後の対比的にくすんだ色調のシャープな現実パートで、3年生カラーの水色の中に瞳の中の赤がアクセントなのぞみ。

 

そしてただ校門から部室へ登るだけの主人公2人の、足元アップでの微妙な感情描写、ハンディカメラ撮影風の画面揺らしフォーカス(背景や前景のピンボケ)の多用、露光過多のような自然な明るさなどが、これでもかこれでもかの連続波状攻撃で観客を引き込む。

 

そして頻度は変わるがこれらは全編ちゃんと続いて統一感。

 

画面揺らしやフォーカスはハルヒの God Knows! でも効果的だったが、「リズ」では頻度や細かさがパワーアップしてる。もはや特殊効果というより標準効果か。

涼宮ハルヒの憂鬱 God Knows!

 

京都アニメーションは、最初はハルヒのGod Knows! やらきすた OPなど特定パートがオタク的に評判になり、次にけいおん! で生活感ある作画とシリーズ全体の安定品質が更に評価されたと思うけど、この「リズ」はアニメと実写の境界的な描写をギリギリに、でも単なる「リアル風な絵」ではなく「絵」を基本にした、情感を丁寧に伝える1つの到達点かと。もはや映画だ(映画だけど)

 

同じシリーズ内でファンのイメージも守りながら、登場人物によって世界の描き方(演出)自体が大きく違うというのは、チャレンジングと思う。更に発展できそう。

 

細かい話では、ちょっと昔のカルピス劇場(世界名作劇場)みたいな絵本パートでリズのハンカチが風で空に舞い上がると、青い少女が思わず飛ぼうとする足元のアップ(これまた足元だ)。これだけで十分でうまい。

 

ただハイライトシーンと思われる最後の練習シーンは、画面揺らしやフォーカスの総動員ながら無理に盛り上げてないのがいいけど、そのせいでちょっと盛り上がらない(どっちだ!)。ここは悩ましい。趣味が判れそうだ。(実はフルートとオーボエの変化がさっぱり聞き分けられない自分が悪い気もする。)

 

そしてラスト。2人の会話のすれ違いが、やっぱりずっとズレたまま、でも少し変化している。多分そうして続いていくのだろう。それだけなのがまたリアルだし納得感。

 

従来手法を丁寧にリファインしていった形での京都アニメーションの、もはやアニメというより1つの映像作品に思うのでした(アニメだけど)

 

(了)

「カメラを止めるな! スピンオフ 『ハリウッド大作戦!』」

タイトルが長いがクレジット表示通りなので仕方ない(笑)

同作(2019年)は、前作 「カメラを止めるな!」(2017年)のスピンオフドラマとしてAmeba TV配信と限定劇場公開された。これも劇場は見損ねたので今回U-NEXTで観た。未見の方も多いと思うので前作以上にネタバレは最小限に書きたいが、ネタバレ無くすと書く事が無くなってしまうので困る。

 

前作のスタッフ・キャストがほぼ再結集。続編や新作というより、スポンサーのネスレ提供の前作ファン向けの同窓会的なプレゼント企画という感じだから、厳しいコメントは野暮かも。

 

こういうのは同じキャラやパターンを期待するファンも、新展開を期待するファンもいるのでバランスが難しいと思うけど、「全く同じじゃないか」という構成と、「でも重要なポイントがいくつか違う」の両面があり、どうにか両方クリアできたように思える。

 

なお前作は緻密な伏線回収の宝庫だったけど、当作は単純化して絞っている。こだわりたい人には物足りないが、メインテーマはシンプルになったのでは。「ハリウッド」がいくつかの意味を暗示している。

 

とはいえ、前作は見返すと再発見が楽しめたが、当作の前半のハリウッドサインは白すぎて詐欺っぽい(我ながら苦しい表現)。

 

最後に。前作では従来はヒロイン役(秋山ゆずき)と監督役(濱津隆之)がうまいと思っていたけど、前日に前作を見返したら実は娘役(真魚)がすごくうまい気がしてきた。そして本作を見たら確信に変わった。演技に見えない雰囲気だ。今後も期待したい。

 

映画「カメラを止めるな!」はワンカットと悪役が良い - らびっとブログ

 

(了)